山口県内では、宇部市に化学プラントなどの工場群がある宇部興産も5月6日から約2カ月間の計画で定修に入っている。

 宇部興産の工場群では食品包装フィルムに使われるナイロン樹脂などの生活必需品や医薬品を生産するほか、新型コロナウイルスの治療薬として期待される「アビガン」の中間体も生産する計画だ。感染防止対策を徹底した上で定修を進めている。

 感染防止対策は従業員や工事業者の入構時の検温や毎日の体調確認、可能な限り「3密」を避けた作業環境の実現、不要不急の外出や市内飲食店での食事の自粛など多岐にわたる。

 さらに、各事業所の健康管理責任者、衛生管理者が工事業者の健康管理記録表を毎日把握して新型コロナの症状が疑われる作業員は入構させない、3密防止のためのパトロールを実施して工事環境を一定水準に保つ、昼食弁当の構内デリバリー対応と十分な広さの食事場所の提供などで作業員の外出機会を極力抑えるなど徹底。「市民の方々にご迷惑をおかけしないよう最大限の対策を採って定修を実施する」(同社)としている。

地元住民から懸念

 工事関係者が域外から多く集まる定修に対する地元住民の懸念の声は他の自治体にも入っている。

 北海道苫小牧市は4月30日、出光興産が持つ北海道製油所に対して定修規模の縮小を要請する文書を送付。そのなかで「国の認定に必要で石油製品の安全・安定供給の継続に必要最低限の点検・工事に限定すること」「工事の実施に際して作業現場のみならず宿泊施設などにおける感染予防対策の徹底や市民への周知を図ること」「作業従事者や工事関係者などの感染防止対策が徹底されるよう配慮すること」を求めた。

 北海道製油所は今年6月から約2カ月間にわたり、4年に1度の定修が予定される。出光興産は要請に応えるべくただちに検討を開始、5月22日に定修の2週間後ろ倒しと工事規模の縮小を発表した。北海道外から訪れる作業員の動員人数も当初計画の9000人から4700人に縮小するなど、地元住民の懸念の声に応えた格好だ。

 千葉県市原市の京葉コンビナートでも多くの化学プラントが定修を予定している。現状で県や地元市などから立地企業に対する要請は行われておらず、企業側も当初計画通り定修を行う方針。ただ「定修を懸念する市民の声は何件か届いている」(同市)という。

 こうした自治体による定修への要請は地元住民の懸念に端を発しているケースが多いといえそうだ。実際に自治体に尋ねると「地元住民は県外から人が集まることが分かっており、不安の声がある」(山口県)、「地元の心配は承知している」(周南市)といった声が返ってくる。県をまたぐ人の移動が多い都市部よりも地方で声高に懸念の声が挙がるように見受けられる。

 とはいえ、社会基盤を支える化学、石油などのプラントの安全・安定操業を継続する上で、定修は避けて通れない。日本化学工業協会の淡輪敏前会長(三井化学会長)は5月15日に行われた在任中最後の会見で「設備を安全に運転するため、法および自主による点検や補修を行っている。従業員や協力会社社員の新型コロナ感染は脅威であり、感染防止に最大限努めている」と語った。

メンテ業界も対策

 そうしたなかで、プラントのメンテナンス業界も独自の対策に乗り出した。

 メンテナンス業界では1年を通じて仕事が切れ目なく続き、定修の現場から現場へと移動する旅烏の作業員も多い。緊急事態宣言が解除されても定修の現場では感染防止対策が続くと想定される。

 このためプラントメンテナンス業の全国組織、日本メンテナンス工業会(東京都港区)では作業員の体調管理や行動記録が継続的にチェックできるよう業界統一フォーマットを作成して会員企業に配る予定だ。

 化学や石油などのプラントに保安検査や定期自主検査を義務付ける高圧ガス保安法を所管する経済産業省は、実施時期の4カ月延長を認める特例措置を設けた。新型コロナ感染防止対策で人の密集を減らすなどして定修期間が従来に比べて長くなるケースなどを想定している。特例措置を受けて「メンテナンス要員を集められない状況などを想定し、適用を検討している事業者はいるようだ」(経産省高圧ガス保安室)。

 今回の特例措置は4月10日から9月末までに期限を迎える事業者が対象になる。経産省はプラントの安全を確保する高圧ガス保安法の趣旨に照らしながらも、新型コロナの影響が定修の現場に及んでいることを鑑みて追加的な施策を検討中。具体的には期限の再延長や、10月以降に期限を迎える事業者への特例措置などを検討しているもよう。とくに10月以降の対応については「事業者が要員確保の準備に入る前に結論を出したい」(同)としている。(八巻高之、松井遙心、豊田悦史、小林徹也)

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