化学は二酸化炭素(CO2)を大量排出する産業セクターではあるが、カーボンリサイクルを実現するための中心的役割を担うとも期待される。三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長はかねて炭素循環の重要性を強調しており、現在はカーボンリサイクルファンドの会長として炭素利用技術の研究開発を支援するとともに、経済産業省のグリーンイノベーション戦略推進会議の委員として国の政策立案に提言する立場にある。化学産業の未来について聞いた。

 <もう後戻りできない>

 ▼昨今のカーボンリサイクルに関する世の中の動きをどう見ますか。

 「石油化学工業協会会長のころ(2012~14年)、石油化学は炭素を加工する産業であり“錬炭素術師”だ、石化産業ではなく“循環炭素化学産業”と改めるべきだ、と唱えたことがある。低炭素、脱炭素だけでは解決にならないということを訴えたのだが、誰にも相手にされなかった」

 「当社は09年4月に地球快適化インスティテュートを設立したが、最大のテーマが人工光合成だ。光で水を酸素と水素に分解し、水素と回収したCO2と反応させて炭化水素化合物をつくるプロジェクトを開始した。一民間企業でやり切れるテーマではないので、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に引き取ってもらった。その後、NEDOは各種カーボンリサイクルプロジェクトを立ち上げ、政府は50年にカーボンニュートラルを目指す方針を昨年12月に発表した。ようやくここまで来たかという思いだ」

 「自分の反省でもあるが、日本の化学産業はわかっていたのに正面から向き合わなかった。ブラジルのブラスケムが事業化した、トウモロコシからエタノール、さらには化学品を製造するような取り組みはなかった。いまやのっぴきならない状況だ。石化コンビナートから循環炭素コンビナートに転換することを真剣に考えるべきだ」

 ▼しかし、ネットゼロ実現には大変な困難が予想されます。本当にこの方向に社会は変わっていくのでしょうか。続きは本紙で

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