年輪気候学という研究分野がある。樹木の年輪の幅から過去の気候変動を再現するものだ。連続的なデータがなく数値モデルを用いる研究では難しい100年単位の長期期間を対象とする場合に使われる▼頻発する猛暑や干ばつの傾向を分析しようと、モンゴルに着目したのが東京大学生産技術研究所の金炯俊特任准教授らのグループ。東アジアの猛暑の主な原因の一つが内陸部モンゴルで夏場に発達する高気圧とされるためだ▼以前からモデルシミュレーションを用いた研究を行ってきたが、今回は温度や湿度の変化に敏感なシベリアンラーチなど松系の年輪分析を組み合わせ、熱波の頻度と土壌水分量の変動を過去260年にわたって構築し直したところ、最近の20年間で劇的な変化がみられた▼土壌水分の不足が地表面の温暖化を促し、高気圧から吹き出す風の循環場ができやすくなる。それが土壌の乾燥をさらに悪化させる熱波の発生につながることが示唆された。複合的に発生した温暖化と乾燥の偏差(長期平均からの差)は過去に前例がない大きさで、自然変動の範囲を越えているという▼問題なのはこうした気候システムが一線を越え、元に戻れなくなってしまう可能性があること。温暖化がもたらす負の循環。われわれにそれを食い止める手立てがあると信じていたいが。(20・12・18)

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