広栄化学工業は、新型コロナウイルスの治療薬として期待される「アビガン」および「レムデシビル」の原料を生産する。千葉工場(千葉県袖ヶ浦市)の既存プラントを生かし、5月中にアビガンの合成原料であるピリジンの生産体制を構築する。レムデシビルの原料であるピロールは3月から海外の受託製造メーカー向けに生産を開始していたが、このほど米ギリアド・サイエンシズとの直接取引も決定し、生産量を拡大する計画。世界的危機に際し、ファインケミカル企業の底力を発揮する。

 ピリジンについては政府によるアビガンの国産化要請に応じるかたち。ピリジンはアビガン合成の際、フッ素を固定化する溶媒として使われるという。5月中にも、農薬原料や各種溶媒向けにピリジンを製造していた千葉工場の気相反応プラントでアビガン向け原料の稼働を開始する。同社では多様なピリジン塩基類を生産しており、全体の生産能力は年1万トン。このうちアビガン向けの生産規模は現状では未定だが、政府の目指す年内200万人分の備蓄目標に貢献していく方針だ。

 ピロールはコロナ危機が本格化した3月に入って以降、海外のレムデシビルの受託製造メーカーから供給要請を受け、一部で生産を始めていた。このほど米ギリアドから直接増産依頼を受けたため生産規模を拡大する。ピロールはレムデシビルの骨格を形成する原料で、同社は従来、有機EL(エレクトロルミネッセンス)や太陽電池向けの原料として製造していた。現状の年産能力は200~300トンで、すべてをレムデシビル向けに供給するかは未定。だが、このフルキャパシティには増産の余地があるもようだ。

 今期、千葉工場は定修期にあたるが、通常2カ月の定修期間を自社で生産していた原料を外部購入に切り替えるなどして1カ月に短縮する体制にめどをつけた。捻出する生産余力を生かし、切り替える品目は在庫を積み増して機会損失を避ける。

 有機合成技術に定評がある同社は昨年度、マルチプラント設備の生産計画調整により新規合成案件の受注活動を強化。工場と研究所の連携強化も奏功し、複数の工業化案件でユーザーの期待を上回る収率、納期を実現した。これら利益率の高い新規案件が貢献したことで前期業績は最高益更新が期待されている。コロナ治療薬の原料生産で今期業績も当面は安定推移するとみられるなど、技術力と組織力を融合したファインケミカル企業の底力を存分に発揮している。

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