新型コロナウイルスの流行にともない、抗ウイルス繊維への引き合いが強まっている。関心の深まりという枠を超え、マスクや防護服などを製造するメーカーからはより高い科学的根拠を求める声も多い。これを受け、エビデンス強化の動きなども活発になってきた。抗ウイルス繊維技術・製品を持つ各社では、高まるニーズに応えていく構えだ。

 ウイルスは脂質膜の有無により、エンベロープとノンエンベロープに区分される。新型コロナを含むエンベロープウイルスは脂質膜の破壊(変性)により失活化が期待できる。抗ウイルス繊維の多くは繊維表面に資質膜を破壊する機能を付与している。新型コロナによる抗ウイルス性試験は現状困難だが、同じエンベロープウイルスであるインフルエンザなどで効果が示されれば、有効性の推定につながる。

 まず同機能を付与し得るのが、陽イオン界面活性剤である第4級アンモニウム塩。経済産業省の要請による製品評価技術基盤機構(NITE)の高濃度アルコールを代替する新型コロナの消毒方法の検証では、次亜塩素酸水などとともに評価対象となった。表面に固定化し、機能を維持すれば、繊維でも有効性が期待できる。

 脂質膜の破壊と、細菌の細胞膜を破壊する機序が類似しているため、抗菌繊維が抗ウイルス性を保有していることもある。日華化学の「ニッカノンRB」もその一つ。1987年から第4級アンモニウム塩を用いた、繊維加工用抗菌防臭剤として展開してきた製品だ。

 同社ではこのほど、RBの同試験(ISO18184)を実施し、A型インフルエンザ(H3N2)での効果を確認。RBで加工した綿/ポリエステル混織物上のウイルスは120分で99・9%以上減少した。新型コロナを想定して、今後さらなる試験実施も検討中だ。

 RBは国内およびアジア市場向けに販売している。「3月以降、新型コロナ関連でマスクや医療用ガウン用途で受注が伸長。とくにベトナムやインドネシアでは、各政府の方針もあり、顕著となっている」(同社)。

 さらに同社では欧州バイオサイド規制(BPR)および、米国環境保護庁(EPA)の基準に沿った「同RB-40」も開発。こちらも同試験でA型インフルエンザでの抗ウイルス性を確認しており、6月までに欧米市場で販売を開始する予定だ。

 シキボウが2006年から展開するのが抗ウイルス加工「フルテクト」だ。第4級アンモニウム塩を用いた薬剤を独自の架橋剤で繊維に架橋結合させ、抗ウイルス効果と洗濯耐久性を両立。介護用ユニホーム用途などへのテキスタイルの供給で実績があり、レーヨン100%の不織布を用いた「フルテクトマスク」も自社販売している。

 鳥インフルエンザですでに抗ウイルス性を確認しているがこのほど、新型コロナと同じ亜科のヒトコロナ(229E)でも同試験(同)を実施。含浸させた同不織布上で99・9%以上のウイルス減少率を確認し、さらにエビデンスを強化した。「これまで引き合いのあった手袋やタオルなどに加え、新たに防護服や布製マスク、肌着、寝装品での採用が決まっている」(同社)という。

 一方、マナックの「イータック」は第4級アンモニウム塩とシラン化合物を組み合わせたエトキシシラン系の化合物からなる固定化抗菌・抗ウイルス剤。このほど、加工除菌フィルターでネココロナ(FIPV)での効果も確認した。

 イータックを活用し、繊維表面に固定化する独自の加工技術「クレンゼ」を持つのがクラボウだ。インフルエンザなどのエンベロープウイルスへの効果をすでに確認。綿を中心とした天然素材へ加工して供給している。「白衣や医療用シーツなどの用途で実績があり、引き合いが増えている」(同社)という。

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