新型コロナウイルスの拡大により、引き合いが強まっている抗ウイルス繊維。第4級アンモニウム塩を固定化させたもの以外でも、新型コロナが属するエンベロープウイルスに効果が期待できる技術・製品に注目が集まっている。

 東レの抗菌防臭・制菌素材「マックスペック」もその一つ。合成繊維用染料と類似した有機性無機性を有する特殊機能剤(有機金属化合物)をポリエステルなどの繊維表層に吸尽、担持している。細菌が付着すると、細胞膜が破壊して死滅する。同細胞膜とよく似た構造を持つエンベロープウイルスの脂質膜も破壊、宿主へ侵入して、増殖が抑制されると考え得る。

 2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際、東レは中国防疫機関と協業。先駆的に検証実験を実施して、SARSウイルスに対する同素材の抗ウイルス性を立証した。SARSは今回の新型コロナ(COVID-19)と同様に新種のコロナウイルスが原因で、「SARSのような検証はできていないが、原理的に考えると新型コロナへの抗ウィルス効果はあると推測できる」(東レ)。

 同素材はこれまで、医療用ユニフォームなどで実績があるが、抗ウィルス性を訴求してこなかった。東レでは機会を捉えて、新型コロナを想定した検証実施も検討。今後、抗ウィルス素材としての展開を視野に入れ、必要な基準の整備を行い、拡販していく計画だ。

 他方、アクリルを改質することで付与されたアクリレート自身の抗ウイルス性を活用しているのが東洋紡の抗ウイルス素材「ヴァイアブロック」。表面にアニオン性官能基を高密度に有することで、付着したウイルスの脂質膜および、たんぱく質を破壊。失活させ、吸着を阻害する。

 製造は子会社の日本エクスラン工業が担っており、繊維と微粒子(エマルジョンと乾燥粉体)の2形態で展開。微粒子は、コーティング剤に加え、繊維加工剤として使用されている。また、不織布「ヴァイアブロックNW」も手がけている。

 インフルエンザウイルスでの効果をすでに確認。ノンエンベロープウイルスであるネコカリシ(ノロの代替)でも有効性を示すが、とくにエンベロープウイルスで効果を発揮する。「新型コロナでは検証できていないが、同様の効果は期待できると考え得る。需要は非常に高まっている」(東洋紡)。

 現在、とくにニーズがあるのがマスク用途。繊維専門商社「豊島」(名古屋市中区)はクラウドファンディング(CF)サービスサイト「マクアケ」で同素材を用いたマスクの商品化を目指している。目標の100万円に対して、応援購入総額はすでに1億2000万円を突破した。

 同材は販売を開始した15年以降、繊維ではマスクやマットレス中綿、微粒子を用いた後加工でも医療機関向けユニフォームなどで実績がある。今後は、手袋やカーテン、壁紙、毛布などへの応用も検討していく考え。

 東洋紡ではマスク用途の需要拡大などにより大きく伸長するとみており、20年度は同素材で売上高1億円を見込んでいる。現在の生産能力でも十分対応可能だが、販売が大幅に拡大すれば増産対応も計画していく方針だ。(安宅悠)

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