山口県宇部市は、宇部興産の企業城下町というイメージが強いが、「彫刻のまち」でもあることを最近知った。60年前に現在の「UBEビエンナーレ」へとつながる日本初の野外彫刻展を開いたことに始まる。戦争で荒廃したまちの復興と、心の豊かさを取り戻そうと願う市民運動を契機にしているという▼「ビエンナーレ」は2年に一度開かれる美術展覧会のこと。100年以上の歴史を持つヴェネツィア・ビエンナーレがその語源。60年の歴史を持つUBEビエンナーレも、今では世界で最も歴史のある野外彫刻国際コンクールに発展した。大賞に相当するのは宇部興産グループ賞だ。歴代の入賞作品など200点超が市街地や公園などに設置されている▼産業と共生するだけでなく、アートとも共生するまちUBE。関係のウェブサイトを見巡りながら、いたるところに配置された野外彫刻の写真に引き込まれた▼彫刻はやっぱりまちの中にあるパブリックアートであってほしい。フィレンツェにあるミケランジェロ作のダビデ像のように、本物は美術館の中、レプリカを野外に、でもいい。まちに彫刻があり、人々と共生することにより、まちという空間・時間が彫刻されていくように思える。自由に旅することができるようになったら、ぜひ一度は訪ねてみたいまちだ。(21・8・4)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る