知っているようで、よく知らないものに火がある。例えばロウソクはロウが燃えるのに、真ん中にある芯がなければ着火しない。その芯は紙や繊維でできているのに、一気に燃え尽きることがない。言われてみればなるほど不思議だ▼火を使うことで人類は発展の機会を得た。それまで食べられなかった穀物や芋や野菜が食べられるようになり、肉も安全になった。これが脳を大きくできた要因ともされる。土器や陶器類、鉄などの金属も火がなければ作れず、火の暖房がなければ寒い土地にも進出できなかった▼それほど重要で身近な火ではあるが、一方で環境汚染の原因でもある。身近な例でいえば、冬の風物詩で唱歌にもなっているたき火は、近頃はほとんど見かけない。住宅地でたき火をすれば迷惑だからと思いきや、平成の中頃には原則違法となっていた▼オール電化のマンションも増えたし、エンジンで燃料を燃やす自動車もあと何年生き延びられるかわからない。石油化学コンビナートに工場見学に行くと見せてもらったナフサ分解炉のバーナーの炎も、今世紀の中頃になれば無くなっているかも知れない▼身近だったはずの火は、山火事などの自然現象以外は姿を消していくのだろうか。コロナで大変な近所の鰻屋や焼き鳥屋の親父がこれを読まないことを願う。(21・1・12)

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