フィルムカメラがちょっとしたブームになっている。機を捉えて老舗カメラ雑誌で特集が組まれている。国内のフィルム市場は横ばい、アメリカなど北米では約1・5倍、ヨーロッパでは約2倍に伸びているという▼25年ほど前に登場したデジタルカメラによって、フィルムカメラはあっという間に苦境に追いやられた。衰退の一途かと心配されたが、フィルムの「良さ」は忘れられていなかった▼装填したり、レバーで巻き上げたり、現像と同時プリントを頼みに写真屋の店頭を訪れたり。その面倒くささが逆に良い。ピンぼけや露出はずれなどフィルムカメラは失敗も多い。その失敗が人間くさくてこれまた良い。人気の理由はもちろん画質にある。とくにバライタ紙に焼いたモノクロプリントは美しくて感動ものだという▼デジタルとの根本的な違いは、撮影画像をその場で確認できないこと。そして、フィルムコストがあるのでむやみやたらにシャッターを押せないこと。一枚一枚にそそぐ集中力は、フィルムカメラのほうに強く必要だろう。ディスプレイに映し出された多数の写真から選び出すのではなく、一発勝負の緊張感だ▼近所の写真スタジオでフィルムカメラが手頃な値段で並んでいた。手の出なかった垂涎の機種が数万円ほどで売られている。これも一期一会だ。(20・6・15)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る