気候変動対策は、2020年から適用が始まった国際的な枠組み「パリ協定」をはじめ、世界規模でさまざまな取り組みが進んでいる。日本においても、50年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする政府の「カーボンニュートラル」宣言などを受け、今後ますます加速すると見込まれる。国連の定める持続可能な開発目標(SDGs)に沿うという点で、循環炭素社会の実現には日本の国土の約7割を占める森林をうまく活用することも必要になるだろう。

 日本は国土面積の3分の2を森林が占める。森林は人の社会経済活動によって排出されるCO2を吸収してくれる貴重な存在といえよう。50年のカーボンニュートラルに向けては排出削減とともに、吸収量がカギを握る。

 50年までの通過点として、政府は30年に温暖化ガスの排出量を13年度比で46%減らす野心的な目標を掲げた。産官学が一体となって、この問題に取り組み、確実な成果をあげることが求められるなか、切り札の一つとして新たなビジネスチャンスの可能性からも注目を集めるのが、木材から作る「セルロースナノファイバー」(CNF)だ。

 CNFは、木材の主成分であるセルロースを、直径数~数十ナノメートルまで化学的・機械的に細かく繊維状に加工した素材。鉄より強くて軽いうえ、熱変形が少なく、粘度を高める働きなどを持つ。サプライヤーとなる製紙業界や化学業界を中心に、多方面で新たな機能の付加につなげようと技術開発が活発化している。

 例えば大王製紙は、研究開発の段階を経て、この数年の間に自社商品であるトイレ掃除用ペーパークリーナーへの配合や卓球ラケット用部材への活用に加え、レースカーの車体外装全体・内装への実装とCNFの商業化や用途開発を進めてきた。

 今後は自動車部材や家電製品など幅広い用途展開が期待できるCNF複合樹脂の生産性向上とコストの大幅低減を加速していくとともに、CNF配合による軽量化やプラスチック使用量削減などによってCO2削減にも貢献していく狙いだ。

 CNFは日本が自給自足できる素材でもある。矢野経済研究所は、世界のCNFの30年の市場は20年比約5倍の258億円と予想する。木質資源の豊富な北欧や米国、カナダでもCNFの研究が盛んだが、論文や特許の出願数を伸ばす中国のほか、国を挙げた投資で韓国も存在感を強めている。日本の製紙・化学業界には、海外勢に真似できない高機能品の開発はもちろん、持続可能な社会につながる道を作り続けることで世界の市場をリードしてほしい。

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