シンガポールで4工場を運営するデンカ。2016年にはライフサイエンス研究開発拠点も開設した。地域統括会社・デンカケミカルズホールディングスアジアパシフィックの徳本和家社長に、コロナ禍対応や事業継続に当たっての課題などを聞いた。

▼…マレーシアの都市封鎖(MCO)や、シンガポールの外国人労働者感染拡大の影響は。

 「溶融シリカとへアピース用繊維を製造するテュアス地区(シンガポール本島西部)の2工場はマレーシアから通勤する技術者などが多く、MCO実施が突然だったこともあり工場運営に影響が生じた。人員が不足したため日本で代替生産可能な繊維の生産を一時的に止め、溶融シリカ工場に人員を集中させて生産を続けている。一部のマレーシア人通勤者にはシンガポールにホテルを確保して勤務を続けてもらっているが、すでに2カ月が経過しており精神的なケアも行っている」

 「外国人労働者は建設・修繕関係の契約会社の従業員に多い。シンガポールでは、一般ポリスチレン(GPPS)生産設備のメタクリルスチレン樹脂設備への改造、球状アルミナ設備の新設という2つの投資計画が進行中で、感染拡大によっていずれも一時停止を余儀なくされた。遅延の影響は精査しているが、いずれも予定通り21年には商業生産を開始できる見通し。感染終息後に円滑に建設工事を再開できるよう準備を整える」

▼…製品需給への影響は。

 「スチレン系樹脂、アセチレンブラック、溶融シリカの3工場は足元フル稼働を続けており、いずれもコロナ禍の影響は小さい。例えばスチレン系樹脂は自動車部品向けの比率が低く、在宅勤務が増えたことでテレビやパソコンのモニター、包装材料向けの引き合いが強い。景気変動や外部要因に影響されにくい製品の比率を高めるグループ戦略が奏功した」

▼…サプライチェーン寸断・途絶への備えは。

 「ジュロン島の2工場は、パイプラインで調達できる原料・用役に関して影響はほぼないが、周辺国から調達する包装材料や物流資材の確保が困難となり、一時非常に苦しい状況だった。今後は人員・資材不足を想定し、生産出荷計画をサプライチェーンの『弱いリング』に合わせて構築する必要があるのではないか。例えばスチレン系樹脂では、製品を出荷用の大型包装に詰め込む作業を全系列で同時に行うことがある。この工程は自動化が難しく人手も要するため、同時作業を避けることも検討する」

▼…デジタル化投資が事業継続に寄与した点は。

 「スチレン系樹脂の工場ではセンサーを約400個設置し、日本のメンテナンス会社ともネットワークをつなぐことで異常を早期に検知できるようにした。重度の損傷を受ける前に設備を停止して修繕し、機会損失の拡大を防ぐ仕組みだ。突発停止を防ぎ、仮に停止したとしても修繕を短期間に完了させることは、人手不足の状況ではとくに重要だ」

▼…シンガポール化学産業の長期的な競争力について。

 「今回のような大幅な需要減少局面で、高度に統合されたシンガポールの化学サプライチェーンは諸刃の剣になり得る。生産網全体が影響を受けるためだ。ただ、われわれは生産拠点選定に当たって、原料立地を最優先に考えている。コロナ禍後に他の選択肢が増えるかもしれないが、原料を安定した価格でパイプライン調達できることは、シンガポールの大きな強みだろう」(聞き手=中村幸岳)

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