政府は今月からカーボンプライシングの導入へ向けた検討を本格化した。昨年12月まとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」にある「カーボンプライシングなど市場メカニズムを用いる経済的手法についても躊躇なく取り組む」との宣言を実行に移した格好だ。この戦略には、革新的な環境技術の開発から社会実装までを支援する2兆円基金の創設も盛り込まれている。しかし炭素に価格をつけて負担させるだけでは事業者が疲弊するばかりだ。イノベーションによって、すべてが救われると考えるのは楽観論に過ぎる。同じく戦略に盛り込まれている、省エネなどを通じた低炭素への着実な移行(トランジション)の重要性を忘れてはならない。

 今国会に提出された産業競争力強化法の改正案には、トランジションへの支援策が盛り込まれた。生産工程などの脱炭素化を進める設備の投資促進に向けて、炭素生産性(付加価値額/エネルギー起源CO2排出量)を向上させる設備の導入に、最大10%の税額控除と50%の特別償却を認める。財政投融資を原資とした低利の融資のほか、あらかじめ定めたCO2削減目標の達成度に応じて利子を補給する制度を設ける。

 しかし公的資金でできることには限界がある。民間資金をトランジションにも呼び込む必要がある。そこで政府が先月立ち上げたのが「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」だ。金融機関がトランジションの取り組みへ資金を供給する際に参照する手引きをまとめる。基本指針とともに、一足飛びで脱炭素化できないCO2多排出産業向けのロードマップを策定する。電力・ガスや鉄鋼、紙・パルプなどに加え、化学も対象の候補となっている。

 トランジションが重視される背景にはEUタクソノミーのような手法への危惧がある。ここでは、一定の基準・閾値を満たすものだけをサステナブルと認め、そこに民間資金を集める。現状に代わる脱炭素型の技術が確立していない産業では事態が深刻だ。イノベーションを待つ間に、省エネなどにより低炭素化を進めたくても資金が回ってこない。こうした懸念を抱くのは日本ばかりではない。スイスに本部を置く国際資本市場協会(ICMA)は昨年12月、トランジション・ファイナンスに関する手引きを発行した。日本の検討は、これを踏まえている。

 50年のカーボンニュートラルを達成するには、30年までに排出量を10年比45%削減する必要がある。今すぐできることから始めるためにも、トラジンションへの支援が重要だ。続きは本紙で

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