欧米で承認された医薬品が遅れて日本で承認される「ドラッグ・ラグ」。長年問題視され、近年は産官学の業界全体を挙げた取り組みを通じて解消に近づいているとの報告が増えていたが、逆に日本未承認の抗がん剤が急増しているという実態がある。その背景には、さまざまな問題が潜む。一刻も早く手を打たなければ必要な医療が国民に届かない恐れがある。 

 国立がん研究センターの分析によると、欧米のどちらかで承認され、日本で未承認だった抗がん剤の数は2015年から20年までの間に66品あった。05~09年は7品、10~14年は11品と右肩上がりに増えているだけでなく、直近5年で急速に増加している。抗がん剤が日本で承認されていても未承認の効能は多く、その数も増加している。

 日本で抗がん剤が承認されない理由の一つに、そもそも日本で開発が行われていないという背景がある。欧米発の新薬は小規模な製薬会社やベンチャーが創製し、実用化を担うことが少なくない。とりわけ最先端技術を駆使したケースは、その傾向が強い。従来であれば、そうした最先端の薬を日本の製薬会社が導入し、日本での開発を担うのが一般的だった。

 ただ日本の製薬会社もグローバル展開が進み、薬価引き下げの圧力が強い日本の収益依存は下がり、世界最大の医薬品市場である米国に投資を集中している。米国での権利取得を優先して新薬を獲得したり、企業買収するケースが多い。米国での事業化を優先するため、日本での実用化は、どうしても後回しになりがちだ。

 世界同時に新薬を開発する手法として、日米欧一斉に臨床試験を行う国際共同治験がある。日本で実施される国際共同治験数は年々増え、年200件近く実施されているが、その86%を海外企業が手がけている。日本企業の開発能力は、まだまだ欧米の水準には達していない。

 海外の製薬会社・ベンチャーが日本に拠点を作らないという実態もある。日本の臨床試験に対する規制は国際整合性が低いうえ、日本で臨床試験を実施しても患者が集まらない。集まらない理由もさまざまだが、ある医師は製薬企業との守秘義務があるため治験情報を発信しにくく、医師間の情報格差も生じやすいと指摘する。

 日本に最先端の抗がん剤を導入するには、開発企業の投資意欲を湧き立たせる魅力的な市場づくりが求められる。治験を行いやすい環境の整備も不可欠だろう。がん患者が享受できるはずの医療を受けられないという事態は、いち早く解消しなければならない。続きは本紙で

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