ミルクの壺の縁を跳んでいた2匹の蛙が、誤って壺の中へ落ちてしまう。1匹は「もうダメだ」と嘆き、何もせず溺れてしまう。もう1匹は何とかしようと脚をばたつかせていると、ミルクがチーズに変わり固くなり、外へ飛び出すことができた▼アドラー心理学の書籍に登場する寓話。アドラーは、フロイト、ユングとともに3大心理学者の1人だが、フロイトが「人は過去に規定される」という原因論を唱えたのに対し、アドラーは「人の行動には全て目的がある」と目的論を主張した。1匹目の蛙が壺に落ちたという過去にとらわれたのに対し、2匹目の蛙はどうなるか分からないが助かるかもしれない未来に向け、自分ができることをした▼幸福論を提唱したフランスの哲学者アランは「悲観は感情によるもの、楽観は意志によるもの」と述べている。コーヒーにミルクをたらしただけでは混ざらないように、沈んだ気分を持ち上げるにはスプーンでかき混ぜるような意志が必要。そうした論法だ▼この1年半余り、コロナ禍で友だちや同僚などと接触できていない人も少なくないだろう。自分と向き合う時間が増えたとはいえ、気分が滅入るのも当然だ。しかし沈んだ気分に支配されることなく、未来は自分の意志で変えられると信じ、脚をばたつかせ、スプーンでかき混ぜたい。(21・9・1)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る