一大スペシャリティケミカルメーカーの誕生が夢と消えた。関西に本拠を置く化学2社は、新型コロナウイルスなどの影響で株式移転比率など当初想定していた前提条件に狂いが生じたとして「苦渋の決断」を下し、来年4月に予定していた経営統合を中止することを決めた▼「足し算以上の効果がある」。経営統合を発表した昨年、日本触媒と三洋化成の両社長は口を揃え経営統合の意義を強調した。基礎化学品から機能化学品まで、それぞれの弱点を補いつつ互いの強みを融合させる経営統合は、あまり例がなかった。世界で戦う強い意志を示した統合が破談し残念でならない▼一方、昭和電工はコロナ前に決めた旧日立化成の買収と完全子会社化を予定通り実行した。半導体材料などでグローバルに戦える体制を整えたが、9600億円を投じた買収にともなう借り入れやコロナなどの影響も加わり、財務の立て直しが急務となっている▼2003年に経営統合が破談した住友化学と三井化学。「もし統合していたら」と、20年近く経った今でも話に花が咲くことがある。しかし「たられば」は禁物だ。現実を見据え、未来を切り拓くしか道はない。ぞれぞれ置かれた環境は異なる。新たな価値を創造し社会に貢献するのが化学産業の使命。その使命を全うする道に正解はない。(20・10・26)

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