221年前のきょう、ある男が江戸から北海道へ旅立った。現代では衛星やGPSが発達し、知らない土地へ行く場合でも迷うことなく辿り着け、到着予想時間まで知ることができるが、スマホがないついこの間まで地図が重要な情報源だった。きょうは「地図の日」▼伊能忠敬がちょうど200年前に完成させた「大日本沿海輿地全図」は、北海道の測量から始まった。初めは、複数の弟子に一定の歩幅(70センチメートル)で歩けるよう訓練したうえで、弟子達が歩いた平均値から計測したようだが、その後は180センチメートルごとに印を付けた縄で、より正確な計測を目指したという。歩いた総距離は4万キロメートルといわれ、江戸に戻った15年後には70歳になっていた▼あまりにも詳細な地図だったため、幕府は国防上の理由から流布を禁じたが、ある奉行が長崎オランダ商館の医師シーボルトに贈ったことが判明し逮捕され獄死している。強制退去となったシーボルトは帰国後にメルカトル図法に修正し刊行、ヨーロッパに日本の測量技術の高さが伝わったという。日本で一般の人々が見ることができるようになったのは幕末になってから▼伊能忠敬が正確な日本の地図を作ろうとしたのは「地球の直径を知りたい」と思ったからだという。飽くなき探求心と継続した努力が世界を変えられる好例だ。(21・4・19)

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