コロナ禍の収束が不透明ななか、原燃料の高騰、物流の混乱で、さまざまな物品が値上がりしている。加えてロシアのウクライナ侵攻、中国・上海のロックダウン(都市封鎖)長期化などが世界経済に大きな影を落としている。化学産業においても昨年以降、値上げが相次ぎ、今後もさらなる価格改定に向けた動きが続くとみられている。

 値上げ交渉は、一般的にはメーカーが顧客に上げ幅を提示して個別に交渉を開始し、製品の需給や価格・コスト状況を説明する。顧客の事情なども鑑みて具体的な上げ幅や実施時期を決定するが、決着まで多くの時間と労力を要する。市況が右肩上がりで推移していると、値上げが決着する前に次の値上げが打ち出されるケースもある。昨年に続き、今年も値上げ交渉に明け暮れることになりそうだ。

 石油化学製品では、汎用品を中心に国産ナフサ価格に連動して一定の数式(フォーミュラ)に基づき値決めする方式が一般的。だが、ここにきてポリオレフィン業界では、重油や蒸気などユーティリティコストや副資材のコストを加味した、新たなフォーミュラの導入を目指す動きが出ており、注目されている。

 コロナ禍以降の価格上昇は主原料にとどまらず副原料・副資材の高騰、ユーティリティや物流のコスト増加など、さまざまな要素が複雑に絡んでいる。とくに日本は稼働から50年以上の老朽化した設備が多く、維持・メンテナンス費用も年々かさむようになってきた。このため「これまでの交渉では話題にしなかった部分の費用・コストの負担が大きくなっている」との声も聞かれる。また国際市況に比べ国内価格が大きく陥没している製品もある。

 顧客の姿勢にも変化がみられる。エンジニアリングプラスチックでは、昨年2月の米国の大寒波で原料不足に陥ったナイロン樹脂などの需給がタイト化。顧客が原料を十分に調達できず、生産に支障が生じるケースもあった。メーカー側も「価格よりも調達を重視する顧客が増えてきた」「交渉先の部署名が『購買部門』から『調達部門』に変わった」「従来より上の立場の人が交渉に出てくる」など、変化を感じているようだ。

 メーカーには、安定した品質・価格で製品を供給することが求められるが、昨今の状況では難しい面もある。顧客も値上げの受け入れを渋ったり、買い叩くばかりでは調達がままならず、事業の存続にも関わる。こうした意味でも今はメーカーと顧客が市場の状況を共有し、互いが納得できる新たな商慣習の構築に向け、議論を始める良い機会と言えるのではないか。

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