在宅でも新入社員との距離感大事に-。新型コロナウイルス対策の外出自粛要請を受けて、オフィスへの出勤を制限する企業が増えている。こうした中で企業の悩みのタネとなっているのが新入社員研修だ。大人数で集まる研修が事実上できなくなった。そこで各社が急遽導入したのがオンラインで参加してもらうウェブ会議形式の研修。双方向のやりとりが増え、講義も柔軟にできるなど実施企業は手応えをつかんでいる。一方で、企業の一員としての自覚や考え方の醸成などには課題もあり、フォローアップも重要になりそうだ。

活発な発言が増加

 AGCは4月初旬に始まった新人研修で早速導入した。例年はグループ総勢100人以上をAGCモノづくり研修センター(横浜市鶴見区)に集めて研修を行っている。今年はグループ会社も含めた約150人に向けて講義などをオンライン配信した。

 内容は社会人としてのマナー、経済知識、社内の各担当者による部門別の概要、倫理規定など例年とほぼ同じ。その中で従来との大きな違いは双方向性の向上にある。

 通常はホールに集まって講義するため、講師役が一方的に話す形になりがち。みなの反応が分かりづらいうえ、集中が持たない人も出てしまう。講義中に投げかける質問にも挙手して意見を述べる人はまばらだった。

 ウェブ形式ではチャットボックスに書き込んでもらうため、問い掛けに対し50~60件ほどの回答が即座に集まったという。講師役の同社担当者は「一人ひとりが向き合って聞いてくれる印象。近くに感じられる」と話す。

 リラックスした雰囲気作りを大切したのが、100人弱の新人を抱える日本ペイントホールディングス(HD)だ。先輩社員とのトークや英語学習、同社のプロ卓球チーム「ペイントマレッツ」の紹介などを交え、リモートでも発言しやすい土壌を作った。「昨年の集団研修よりも質問や関心度が高いように感じた」(同社人事部)という。

講義の自由度高く

 他のメリットが自由度の高さ。AGCは一部で外部講座を取り入れた。マインド系研修以外はこれまでほとんど自前だった。他社では、先輩社員による講義に移動時間や場所の制約がなくなって地方や海外の先輩社員が講師を務めることが可能になり、「社内講師の選択肢が広がった。また、質の高い研修を行なうため、研修内容に合わせて参加者を分けることも考えられる」(富士フイルム)との声もある。講義映像を容易にコンテンツ化でき反復学習も可能だ。

 また、カーリットHDはオンライン研修とeラーニングを併用して実施。従来は約1年かけてeラーニングを利用する東洋紡は、今年は短期集中的に実施しているという。

 オンライン研修は場所や時間の自由がきくため、入社時期が一様でないキャリア採用社員への応用を検討する企業もある。

「チーム力」いかに醸成

 実践してみるとウェブ形式では補えない面も見えてきた。インプット主体の研修となるうえ、マナー研修のような実地・実技系は同僚との再現も難しい。グループワークや体験学習が限られ、コミュニケーションレベルが落ちる心配もある。

個々のケアが必要

 じかに会えないことは、人材育成の根幹部分にも影響を与えかねない。新社会人に自社の社員としての意識や同期・先輩と一体感を持ってもらうことは重要。ウェブ形式では「全員が集まる機会が少ないため『チーム力』を醸成しにくい」(日本ペイントHD)との懸念がある。各人の日報からは「感情やモチベーションなどの機微を感じ取ることが難しい」(エア・ウォーター)との声も。個々へのケアが課題だ。

 AGCでは経営陣も交えて手厚くサポートする計画だ。8月に集合研修を予定。島村琢哉社長をはじめ幹部が参加し、新入社員と直接コミュニケーションを取る機会を設ける。同期が集まることで仲間同士の親交も深めてもらう。社会人としての意識の切り替えや仕事のあり方について考えるマインド系の研修も組み込む。少人数チームでの共同作業なども含まれる。

 集合研修については富士フイルムも検討中。エア・ウォーターは非常事態宣言解除後に、出社前提で配属に向けた研修を予定している。

教育をシステム化

 オンライン研修をデータ活用につなげ、教育パッケージシステム開発の実証に発展させた企業もある。凸版印刷は新人研修に自社開発の人財開発システムを活用した。生配信講義や収録講義での学習、ライブコミュニケーションなどと併せて眼目となったのは、メンタルマネジメントを含むコンディション管理と生産性向上に関する研修プログラムの導入だ。

 同社は2017年に「人財開発ラボ」を立ち上げ、ハーバード大学の根来秀行客員教授らとコンディション管理の習慣化を図るプログラムを開発している。今回は専用のスマホアプリを通じ、脳波測定や睡眠・健康管理を実施。日ごとにパフォーマンスを評価するなどゲーミフィケーションを加え、同期との交流が限られる新入社員のメンタルケアに活用している。試験導入で得た実証結果をベースに、教育ラーニングプラットフォームとして外販を目指す。

AGCのオンライン研修の様子

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