新型コロナウイルスの感染拡大が続き、世界の経済や企業業績の先行きが一段と不透明になっている。化学・繊維部門のトップアナリストであるみずほ証券エクイティ調査部シニアアナリストの山田幹也氏に日本企業への影響や取るべき対策を聞いた。

◆…新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に影を落としています。

 「まず日本の化学・素材企業への直接的な影響は限定的とみている。情報を総合すると中国のエチレンセンターの稼働率は総平均で2~3割程度落ちているようだが、日本がそこまで危機的状況とは聞かない。むしろ懸念は顧客企業の操業停止などにより製品出荷に影響が出ることだ」
 「もう1つの問題は物流の混乱。製品が輸送できないだけでなく物流費用が上昇し、地域によっては14日間の隔離などが求められる。コスト上昇分やドライバーの休業補償をどこが負担するのか疑問だ。日本では物流会社の運行管理者が対面点呼でドライバーの健康状態などをチェックする決まりだが、運行管理者に万が一のことがあれば物流が滞りかねない」

◆…過去に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS、2003年)や新型インフルエンザ(09年)などの疫病と今回で経済に与える影響はどのように違っていますか。

 「過去と今回の違いは物流の分断にともなうコスト上昇が比べものにならないくらい増えていることだ。この30年間で経済のグローバル化が進み人やモノの行き来が飛躍的に増えたことと、多くの製造分野で国際分業体制が築かれてサプライチェーンが複雑に絡み合うようになったことが要因だ」

◆…日本の化学・素材企業の業績への影響は。

 「現時点で影響額を試算するのは難しいが、住友化学がヒントになる。20年3月期の業績修正で新型コロナウイルスの影響として、2月後半2週間の状況が3月いっぱい続く前提で40億~50億円の減益要因を織り込んだ。このうち半分を同社が得意とする(ディスプレイ材料など)情報電子化学が占めることを差し引くとしても、他の総合化学企業についても20億~30億円程度の業績圧迫要因になっておかしくはない」

◆…日本の化学・素材企業はコモディティー(汎用品)から高付加価値品へのシフトを推し進めてきましたが、今回の問題を受けて戦略の再考を迫られるでしょうか。

 「高付加価値品とは供給先の顧客企業のために作る製品であり、供給先の操業が止まるなどすれば製品出荷も必然的に止まる。仮に顧客企業が左前の状況であるならば新規開拓などの対応でリスクを回避することも可能だが、それまで健全に機能していたサプライチェーンが一気に寸断されると対応のしようがない。高付加価値戦略を志向する日本企業のビジネスモデルにとって、一番起こって欲しくなかったのが、(新型コロナウイルスなどの疫病によってサプライチェーンが揺らぐ)今回のようなケースだ」
 「コモディティーでもグローバルでコスト競争力があれば事態を悲観視する必要はないはず。コモディティーは需要がゼロになることはなく、いつかまた売れるようになるからだ。だが、それができる企業は日本にあまり多くはなく、コモディティーに戻れば競争劣位に陥る状況のため高付加価値路線を変えるわけにはいかない。各社が取り組むべきはデファクトスタンダード(事実上の標準)やグローバルニッチトップになれる製品を増やし、供給先を複線化するなどして顧客の層をもっと厚くしていくことだろう」(聞き手=小林徹也)

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