【シンガポール=中村幸岳】新型肺炎の世界的な感染拡大を受け、シンガポールに工場を持つ日系化学企業も対策徹底に努めている。生産設備の運営担当者を複数グループに分けて交代で勤務させるようにしたうえで、グループ間の接触を極力避ける企業が多い。複数グループで感染が確認された場合、設備運営の停止を想定するメーカーもある。感染拡大にともなう域内化学品需要の大幅減はみられないが、中国向けの出荷減で稼働率を落とす企業があり、影響長期化を懸念する声も出ている。
 シンガポール政府は化学メーカーなどに対し、複数チーム制で交代運営を推奨するなど事業継続の安定性を確保するよう要請している。
 同国で家電などに使うスチレン系樹脂などの4工場を運営するデンカグループは、政府指針に沿って複数グループを編成し生産を継続。感染者が確認され、全4工場運営のための従業員が不足する非常時に備え「在庫状況やグループ他拠点での同一品生産の有無などを考慮し、優先的に運営すべき工場を決定するBCP(事業継続計画)も定めた」(地域統括会社デンカケミカルズ・ホールディングス・アジアパシフィックの徳本和家社長)。
 三井化学の現地法人・三井フェノールズ・シンガポールは、ジュロン島で運営する樹脂原料フェノールやビスフェノールAの生産設備について、オペレーターや技術者など部門間の接触を避けるほか、同一部門内でも勤務場所や勤務日を分けるなどの取り組みを続けている。「計器室に詰める必要があるプラントオペレーターの完全な分離勤務は難しいが、仮に感染者が出ても運営を継続できる工夫はしている」(吉田学社長)。
 住友化学アジアは市内オフィスで完全2交代制を導入し、1日ごとに自宅と事務所での勤務を実施。「完全に接触を断つのは難しいが、勤務時間外を含め2交代制の実効性を確保するよう指示している」(酒井基行社長)。同社はジュロン島で、アクリル樹脂や塗料の原料メチルメタクリレート3系列などを運営している。通常は4チームで24時間運営を行っているが、これを5チームに増やし、互いに接触を避ける体制を敷いている。
 同じくジュロン島に工場を持つ別の日系企業は、生産現場4チームのうち最大2チームが出勤できなくなる場合を想定してBCPを策定。あらかじめ生産運営に携われる工場日勤者を選抜し、非常事態でも4チームを編成し直せるようにした。この企業は市内オフィスについても、同じビル内に追加スペースを確保。勤務場所を分けてスプリット・オペレーション(分離勤務)に移行する方針。
 現状、在シンガポール化学企業は欧米系を含め必要に応じて社員の出張を認めている。ただシンガポールを含む東南アジア域内の日系化学企業トップは、感染拡大を受けて日本から駐在国への航空便運行が停止されるリスクなどを考慮し、日本への出張を長期延期・中止するケースが多い。

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