新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に深刻な影響を及ぼしている。主要統計は軒並み、想定以上に悪化した経済状況を示し始めた。マクロ経済や政策分析などに基づく国内外の景気動向調査・研究を強味とするスフィンクス・インベストメント・リサーチの藻谷俊介代表取締役に現状認識について聞いた。

 ◆‥新型コロナの感染拡大をどうみていますか。中国では収束しつつありますが、経済に大きな影響を及ぼしています。

 「先に発表された中国の1~2月の主要経済統計をみて驚いた。私はすべての統計を季節調整値で分析することにしているが、どの数値についても第2次世界大戦以降これほど悪化したことはないのではないか。例えば、鉱工業生産にしても、直近6カ月の平均下落勾配を算出して年率で換算すると2020年は36%落ち込むことになる。リーマン・ショック後もマイナスになったが、数十%も下がったのは初めて。もちろん、このままいけばという話だが、ピークの3分の1を失うわけで、中国政府による移動や操業規制は経済にはかりしれない打撃を与えた」

 ◆‥中国経済の今後の見方について。

 「疫病は一過性のものであり、通常であれば、震災などの自然災害同様、数カ月、長くても半年すれば収束して消費の節約もペントアップ需要が期待できる。だが、今回、世界全体にこれほど波及するとは誰も想定できなかった。感染拡大の中心が欧米に移りつつあり、中国が正常化しても輸出減などで回復が遅れる可能性がある。2月を底に3月以降はある程度経済活動を戻していくだろうが、戻りがよほど早くないとこれだけのダメージから回復するのは不可能だ」

 ◆‥日本経済への影響をどうみますか。

 「影響度を示すデータの本格的な開示はこれからだが、例えば、工作機械の受注については年初に下げ止まり感が出ていたものの、2月でまた底が割れたような状況だ。病み上がりの人がもう一度病気にかかったといったところか。こうして統計をみると、常に想定した以上に悪い結果が出ている印象だ。日本経済は景気後退(リセッション)に入るか入らないかではなく、どの程度深いリセッションを迎えるかという議論に移ってきた。東京五輪・パラリンピックが延期され、もう一段落ち込むことになろう。いま期待できることといったら、気温上昇でウイルスの活性が低下する可能性と抗ウイルス剤『レムデシビル』の承認を待つことくらいだろうか」

 ◆‥新型コロナのような疫病の拡大に対し、経営者はどのような姿勢で臨むべきでしょうか。

 「自然災害と同様になかなか準備することは難しいが、結局は常に科学的に考えてスタンスを一定にし、冷静な判断をすべきということに尽きる。また、かつての経営者は在庫サイクルと金利の上げ下げだけをみていれば仕事が済んだかもしれないが、そうした時代はもう過ぎた。自然災害、米中摩擦などの政策変更、そして疫病など、不連続の変化は突然発生する。風説に惑わされず、自ら判断する能力が問われている。医療や衛生に対する基礎知識もこれからの経営者がわきまえるべき知識の一つになるかもしれない」

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