【バンコク=岩﨑淳一】新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がタイの化学産業にも影響を及ぼしている。主要産業である自動車は生産台数が計画を大幅に下回る可能性が高く、素材を供給するメーカーも減産を避けられそうにない。一方、食品包装材などは堅調に推移。感染を警戒する消費者が電子商取引(EC)を利用する傾向も強まっており、包装関連のさらなる需要増加といったプラスの作用も働きそうだ。
 12日11時時点でタイの新型コロナウイルス感染者は70人、回復者数36人、死者数1人。経済活動に大きな変化は見られず、工場操業などに直接的な影響は出ていない。発生源とされる中国の生産活動停止にともなって同国からの原料調達が滞る事態も起こっていない。
 しかし、外国人旅行者の減少によって観光業が低迷し、国内の消費者購買意欲も低下。タイのカシコン銀行傘下カシコン・リサーチ・センターは3月に入り、2020年の国内総生産(GDP)成長率が前年比0・5%とする予測(19年12月の予測値=同2・7%)を発表した。
 製造業のなかで主力の自動車産業が景気後退で大きな打撃を受けそう。19年のタイの自動車生産台数は約201万台で、タイ工業連盟(FTI)は20年の自動車生産台数を200万台と予想している。ただ、経済が冷え込んで国内販売が見込みより下振れ、さらに生産台数の約半数を占める輸出も、比率の高い中東向けが原油安が影響して急速に鈍化する可能性がある。「新型コロナウイルスの拡大が上半期中続くと、年間生産台数は160万~170万台まで落ち込むのでは」(自動車業界関係者)との見方も出ている。


 東南アジア屈指のサプライチェーンを誇るタイは日系自動車メーカー、そしてティア1、ティア2が集積し、素材を供給する化学・素材企業も工場を構える。今年は前年並みの200万台を維持する想定で各社が生産を計画していたが見直しを迫られる。
 一方、衛生材料や包装材料メーカーは底堅い。とくに食品関連は消費者が新型コロナウイルス感染を警戒して外食を控えて内食にシフトしていることからパッケージ分野が好調。「タイ国内向け販売は前年同月を上回るペースで推移している」(在タイ合成樹脂フィルムメーカー)。
 タイは食品加工のハブでもあり、多くのメーカーが生産拠点を置き輸出基地となっている。日本や韓国でも内食化は強まっており、タイから冷凍食品などの供給拡大にあわせて包装材の需要の伸びも期待される。
 内食へのシフトのほかECサイト活用も急増中。タイ国家放送通信委員会(NBTC)は、2月に消費者のECサイト利用量が増えた結果を示し、中国アリババ傘下のラザダグループ(シンガポール)でタイのECサイトを運営する現地法人も、3月初旬(1~4日)の売上高が新型コロナウイルス感染が顕在化する前の1月初旬と比べ20%増となったと発表した。引き続き、梱包材などで需要の増加が見込まれる。
 好不調にかかわらずタイで最大のリスク要因になっているのが水不足問題。全国的な水不足は解消されないままで石油精製、石油化学の一大集積地であるラヨン県などで、多くの工業団地・工場が実質10%給水制限のもと操業し、定期修理の前倒しといった対応も施されている。改善されなければ5月以降に「電力の需給問題まで発展しかねない」(日系化学メーカー)レベルまで深刻化している。

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