渡航規制措置が目まぐるしく変わる中国・上海市へ。26日、居留許可を持つ本紙記者が東京から帰還した。空港着陸から自宅に戻るまで6時間。待機時間が長く、細かな登録作業にうんざりもさせられたが、検疫官など当局の対応は丁寧で好感を覚えた。他方、同日には再びの隔離措置の開始が発表され、有効なビザ(査証)や居留許可を持つ外国人の入境を一時停止する方針が打ち出された。厳格化する水際対策に現地では動揺も広がる。

 午前11時40分。成田空港から飛び立った全日空(ANA)の919便は定刻より20分早く、小雨が降る上海浦東空港に降り立った。
 上海市は3日前に2週間の隔離対象から日本を外したばかり。機内は9割近く埋まり、その大半を占めたのが日本人だ。クルーの一人は「渡航されるお客様が急に増えました」と教えてくれた。
 機内で検疫官の到着を待つこと50分。12時半過ぎから乗客が順に体温検査を受け、降機した。

◆個人情報登録 PCR検査へ

 空港内の作業は検疫管との問診で始まる。ブースが設けられ、機内で記入した健康申告表を基に「日本ではどこに滞在していたか」「発熱はないか」など5分ほど質疑が行われた。顔を見せようとマスクを下げていたら「空港内はまだ危険です。しっかりつけていてください」と気遣ってくれた。

 個人情報を記入する入国カードを記載した後、入国審査へ。空港内はじっとりと暑く、防寒対策を取ってきた乗客の多くが団扇代わりにパスポートを振っていた。
 預け入れ荷物をピックアップしたのは1時50分だった。ここからは行き先ごとに別れ、上海市内はさらに居住地区ごとに集められた。住まいのある長寧区のブースに着く前に所定の場所に大きく張り出されたQRコードを読み取り、情報を登録する必要がある。「スマートフォンがないと家にも帰れませんね」。そばにいた日本人男性が笑った。
 ブースでは、この後PCR検査を受けるため別会場に移ることを告げられた。検査後は自宅に戻れるが、結果が出るまでは無断外出禁止だとし、書類にサインした。
 1時間ほど待たされ、3時過ぎにバスに乗車。乗客26人のうち、日本人はおよそ8割だ。同乗した検疫官は「大変ですが、もう少し頑張ってください」と労いの言葉を投げた。市東部にある浦東空港から西部の虹橋空港そばにある臨空公園へ。移動は1時間を要した。
 4時20分、仮設テントから成る検査場に着いた。配られた個人情報記入表に記された「H12」の赤い文字。検査の順番だ。

◆再び隔離方針に居住地区で違い

 検査までさらに30分ほど待たされることになるが、ここでざわめきが起こる。市が水際対策を強化し、午後6時からすべての渡航者を一律2週間隔離し、健康観察を義務付けることが分かったからだ。入境ずみなのだから、自分達は隔離対象外だろうとも考えたが、居住マンションごとに対応が異なるのは中国によくあること。その場の誰もが強い不安にかられた。
 PCR検査はわずか2分ほどで終わった。専用のテントに2人の検疫官が待っており、書類で名前を確認した後、検体を採取するため口と鼻に綿棒のようなものを挿入された。帰宅してよいが、結果が出るまで外出してはいけないこと、陽性なら8時間以内に連絡することを告げられた。

 新たな隔離措置のことが頭にあり、会社が用意した車に慌てて飛び乗って帰路についた。検査場から約30分、自宅マンションに着いたのは5時40分だった。ここでもQRコードをスキャンして個人情報を登録しなければならない。マンションの担当者に隔離措置の話をすると「お前は問題ない。検査の結果が陰性なら明日から外出してよい」と伝えられた。家に入った時、時計の針は6時5分前を指していた。翌日になっても連絡がないため、検査結果は陰性だったようだ。なお、同日の上海入境者でも居住地区によっては2週間の隔離対象となったケースがあり、現場では混乱も起きている。

◆外国人帰還禁止 再開計画に狂い

 23日に日本人は隔離対象から外されたが、わずか3日で再び対象に戻された格好だ。さらに26日夜、中国の外交部は有効なビザや居留許可証を持つ外国人も28日以降、海外からの帰還を禁ずると発表した。入国者の感染確認が相次いでいることから、外国の航空会社に対しては中国に向かう路線は1社1路線に絞る。
 4月以降は日本人学校の再開を控え、日系企業は日本に退避させていた駐在員家族の帰還を計画しているが、足元の状況が続けば、渡航は困難だ。事業再開計画にも狂いが生じ始めている。(但田洋平)

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