上海へ入境してから3日後の3月29日。本紙記者は、日本から乗ってきた便の同乗者が新型コロナウイルスの検査で陽性反応が出たとして、政府から突然、専用施設での隔離を求められた。用意されたホテルで始まった集中隔離生活とはどのようなものか。

後列乗客が陽性

 29日午後10時。携帯電話に見知らぬ番号から着信があった。女性の声。「こちらは上海市疾病予防管理センター(CDC)です。26日の全日空NH919便の32列目に座っていましたね。付近の乗客から陽性反応が出たため、あなたは明日、集中隔離施設に移りなさい」。
 聞けば、後列の乗客が降機後のPCR検査で陽性だったという。前後3列の乗客は一律、隔離施設に収容される義務がある。「3日も経っていまさら」と嘆いたがにべもない。「明日、自宅に迎えにいきます。荷物をまとめておいてください」。
 収納にしまったばかりの2つのスーツケースを慌てて引っ張り出し、手当たり次第知人に連絡した。「水は支給されないらしい」「食事は期待できない」「エアコンが効かないから防寒対策を万全に」「何より暇つぶしの道具が必要だ」-。夜分に近くのコンビニに走った。5リットルのウォーターボトル、カップラーメン、缶詰、厚手のセーター、書籍などで隙間はあっという間に埋まった。
 出発の準備を整え、翌30日は朝早くから検疫官の来訪を待ったが、インターホンが鳴らされたのは午後3時過ぎだった。重いスーツケースをトランクに詰め込んで車の後部座席に乗り込むと、香港人の男性がうなだれるように座っていた。聞けば10日も前の21日にタヒチから成田経由で上海に入ったという。やはり座席の近隣者から陽性反応が出たとのことで、今朝、隔離の連絡を受けた。
 隔離施設にされたホテルは市西部の虹橋空港そばに位置し、自宅から車で20分ほどの距離だった。入り口の外では既に中国人女性3人が待機しており、登録手続きを済ませた後、5人は検疫官に連れられ裏口の非常階段から人目を避けるように中へ入った。7階は政府が借り上げたフロアのようだ。十数人が宿泊しているというが、「部屋から出れませんから、他の人と接触する心配もありません」と検疫官は笑った。

体温検査2回義務

 隔離期間は入国日から起算して2週間。3月26日の入国なら4月8日の午後3時に帰宅可能だ。香港人男性は4日後の3日に解放されると聞き、安堵の表情をみせた。
 部屋の前で鍵を渡され、検疫官から簡単な説明を受ける。食事は一日3度、午前8時、12時、午後6時に担当者より部屋に運ばれる。体温検査は午前8時と午後1時の2回義務づけられた。期間中、食事のデリバリーサービスは活用できないが、PETボトルの水やカップラーメン、パンなど包装された食品の注文は認められた。このあたりはホテルや地区によって対応が異なるようだ。
 部屋は3メートル四方のワンルームとユニットバスで構成され、広くはないが、清潔感があった。エアコンの効きも悪くない。政府が運営していることもあり、タオルやシーツの交換はない。歯ブラシなどアメニティグッズもなく、準備しておいてよかった。水は350ミリリットルのPETボトル2本が備え付けられていたが、さらなる支給はないため早速注文した。滅入ったのは建物の壁でふさがれた窓。光りがほとんどささず、外の様子がわからない。

 荷物を片付けていると、ドアがノックされた。6時を過ぎ、最初の夕食の時間だ。ドアを開くとノブに温かい弁当が入ったビニール袋がぶら下げられていた。米、白菜炒め、牛肉とジャガイモの唐辛子炒め、鶏肉とニンジンなどの炒めもの。中国の展示会場で販売されているあの味だと思った。脂っぽいし旨くはないが、より酷い例も耳にしていたので贅沢は言えない。

水道水飲んだ例も

 春節明けからこの間、自宅での生活を許されず、施設での集中隔離を余儀なくされた日本人の経験談を多く耳にした。居住地区やホテルによって対応はまちまちで、外国人用の充実した施設だったというケースもあれば、外部調達が許されず、水道水を飲んで凌いだり、エアコンがつかないため寒さに震えながら過ごした話も聞いた。
 これからの不自由さを思うと辟易とするが、過去の事例と比べれば、待遇はかなり改善されてきたのか、あるいは少しはまともな場所に入れたか。自分は恵まれた方だと思うことにした。(但田洋平)

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