半導体や電子部品材料を扱うファインケミカルメーカーは、新型コロナウイルスの感染拡大を不安げに見守っている。今年から5G(第5世代通信)関連需要、半導体市場の復調が期待されていただけに精神的なショックは大きい。サプライチェーンの混乱による生産や原料調達の計画、消費動向を含めて、どの範囲まで影響が及び、事業活動に反映してくるかが読みにくいうえ、騒動前に先行投資に踏み切ったメーカーもあり、終息するまで気を揉む時間が続くことになりそうだ。
 半導体やMLCC(積層セラミックコンデンサー)市場は一時の浮き沈みはあっても、5Gをはじめとするメガトレンドにより長期的な成長が予測されている。従って、この業界に身を置く材料メーカーは将来展望を明るく描けるが、一方でいつ大量受注が来ても対応できるよう、そして競合にシェア奪取の機会を与えないためにも、先行投資せざるを得ない傾向がある。増強設備が計画通りに稼働すればいいが、何らかの要因で需要が停滞した場合のリスクと常に隣り合わせにある。
 こうした事業構造にコロナという外部要因が加わり、長期成長を疑わないメーカーも身構える。とくに今年は5Gの基地局をはじめ、データセンターやサーバー向け需要などが盛り上がるとの期待が高かった。MLCC原料のチタン酸バリウムなどを扱う日本化学工業の棚橋洋太社長は、「今年は刈り込み時ととらえていたが、それも分からなくなった」と需要の減速を危惧する。同社は昨年11月、徳山工場(山口県周南市)にMLCC向けチタン酸バリウムの第2工場建設を決定した。
 1期の設備は2021年春の稼働を見込むが、棚橋社長は「規模については再検討する」と、コロナの影響で当初計画を見直す必要性が高まったと語る。同じくMLCC原料を供給するラサ工業は、伊勢崎工場(群馬県伊勢崎市)に新棟の建て屋をすでに竣工させている。坂尾耕作社長は「投資を進めてきたのはモノが出る前提」と語る。同社も段階的に設備導入する方針だったが、それはあくまで需要見合いの話。「ようすが違う」と、コロナの発生による影響を読むのに苦慮する。
 気になる業績への影響について、ADEKAの城詰秀尊社長は「2月自体の動きは悪くない」と語る。中国子会社の決算期は12月で、19年度業績への連結分も決まっている。多くのメーカーが心配するのは、来年度以降だ。日本化学工業は来年度から新中期経営計画を始動する予定だが、「昨秋に固めた原案を見直す」(棚橋社長)。中計2年目に入る関東電化工業の長谷川淳一社長も「春先からデータセンター向けの需要を織り込んでいた」と、予期せぬ事態の発生に戸惑いを隠せない。
 サプライチェーンの混乱が長引けば、販売はもとより原料調達面でもリスクが顕在化する可能性がある。足元で直接の影響は出ていないもようだが、リンを中国から輸入するラサ工業は「輸入が滞ると数カ月後に在庫がなくなる」(坂尾社長)と危機感を募らせる。日本化学工業の棚橋社長も「状況がみえにくい」と語る。需要減と原料不足にタイムラグがなければ被害は少ないかも知れないが、とくに先行投資したメーカーの新設備は、開店休業ともなれば償却負担が重くのしかかることになる。
 企業経営のうえで考慮する外部環境は通常、規制や競合の動向、市場の商習慣や将来性などだが、この1、2年で米中貿易摩擦などの政治、集中豪雨などの異常気象も経営リスクとして認識され始めている。こうした転換期の混乱に新型コロナは輪を掛けたといえる。不確実性と難易度が増すなか、「多少の遅れには目をつぶり、先に期待する」(日本化学工業の棚橋社長)というのが先行投資している材料メーカーの本音だ。需要が戻り、供給力の強みを一気に発揮できる終息の時が待たれる。(佐藤尚道)

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