新型コロナウイルスの感染拡大により、新型コロナ関連以外の新薬開発に遅れが出始めそうだ。アステラス製薬は31日、新たな臨床試験(治験)の立ち上げや症例登録を原則として中断することを発表。武田薬品工業も25日までに多くの新規治験の中断を決め、デジタル技術などによる代替手段を整える。欧米当局は、被験者の安全確保や医療現場の負担軽減を優先するため、治験の実施体制を見直すよう製薬各社に求めている。中断・延期を決めている欧米製薬に加え、国内製薬にも同様の対応が広がり始めた。
 アステラス製薬は、先ごろ欧米の薬事規制当局が出した治験実施に関するガイダンスを踏まえ、同社や子会社が行っている治験の実施計画を変更した。新型コロナ感染者が急増している国・地域では、治験実施施設での新たな臨床試験立ち上げを一時中止。すでに進行中の治験についても新たな症例登録を中断する。
 対象とする施設や地域は、米ジョンズ・ホプキンス大学が集計している最新の感染者情報をなどを基に判断する。現時点で日本や米国が含まれているかは非開示。感染者が急増していないと判断した国・地域では治験を再開、継続する。同社が他社と開発している案件は、共同開発相手の方針により異なる対応を取る場合もあるとしている。
 武田薬品も、新型コロナ治療薬として開発している血漿分画製剤「TAK-888」を除き、治験の新規立ち上げを中断。進行中の治験についても患者登録など一部の活動を見合わせる。また、被験者やモニターなどが医療機関を直接訪問する手段に代えて、治験薬を被験者に直接届けたり、モニタリング業務をリモートで行うなど「バーチャル」な治験の実施体制を準備している。
 新型コロナの感染拡大により、従来通りの治験を行うのが困難になっている。米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品審査庁(EMA)は3月中旬、治験実施企業などに対し治験実施計画の見直しを求めるガイダンスをそれぞれ発表。被験者の安全に配慮した治験実施体制に変更し、電話やインターネットなどを活用した方法に切り替えることを推奨している。
 米国では同月中旬以降、治験の中断などを決める製薬企業が増えている。米イーライリリーも、ほとんどの新規治験や症例登録などを中断し、一部の新薬開発で遅れが生じる見通しを発表。米ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)も、新たな治験実施施設の立ち上げを見合わせ、感染流行地では健常人を含む治験も延期する。ロイター通信などによると、米ファイザーもほとんどの新規治験や症例登録を一時中止した。日本からは、創薬ベンチャーのリボミックが、米国で行っていた抗がん剤の治験中断を決めた。

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