新型コロナウイルスが世界で猛威を振るうなか、製薬会社にとっては自らの創薬力や使命を発揮する時である一方、医療機関への訪問自粛や渡航禁止といった業務制限などにより事業活動を停滞させるリスクも膨らんでいる。化学工業日報では、新薬の研究開発を手がける主要な国内製薬メーカーに、新型コロナウイルスへの対応策や業務への影響をアンケート方式で尋ねた。3月10~16日にかけて調査を実施し、24社から回答を得た。うち半数の12社が何らかのかたちで治療薬No.ワクチンの開発に協力No.着手していることが分かった。一方、通常の医薬品ビジネスでは8社が提携交渉などの遅延を指摘。新薬開発の遅れや業績下振れなどマイナス影響を心配する企業も少なくない。

 新型コロナが日本にも影響し始めた2月上旬、厚生労働省や国立感染症研究所は、新型コロナの治療に用いる医薬品のスクリーニング(探索)計画への協力を呼び掛けた。アンケートの回答を得た24社のうち11社が協力していると回答。社名の公表に同意したのはアステラス製薬や塩野義製薬など4社あった。
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 独自に治療薬などの開発に着手あるいは検討している企業は4社。社名公表に同意した武田薬品工業と田辺三菱製薬はそれぞれ血漿分画製剤を用いた抗体療法、ワクチン開発に乗り出した。厚労省のスクリーニング計画にも協力しているエーザイは治療薬開発の検討を始めたと回答した。
 国内外の出張禁止や会議体の中止は、製薬会社の重点戦略である「ライセンス活動」「提携交渉」といった事業開発に影響を与えている。実に8社が「事業開発に遅延が発生/発生する可能性がある」と回答。「直接面談ができないなど交渉に支障が生じる可能性を懸念する」といった理由が挙がった。
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 新薬開発にも遅れが出る可能性がある。アンケートでは4社が「国際共同治験など臨床試験の進捗に遅れが生じている/生じそう」と回答し、「治験施設への訪問が制限されている」の理由が多い。一方、「地域によっては影響があるが、現時点で臨床開発に遅れが生じるという判断はしていない」との声もあった。米国では、被験者の感染リスクを回避するため治験を一時中止する海外企業も出始めており、長期化すれば日本企業にも影響を及ぼしそうだ。
 「提携など事業開発への遅れがない」(11社)、「治験進捗に遅れがない」(15社)の回答にも着目したい。新薬開発はもともと長い期間をかけた活動のため、現時点で影響を評価しにくいとする見方が多い。一方で製薬産業の中心地である米国での感染拡大は米国食品医薬品局(FDA)や海外製薬大手の活動を停滞させており、先行き不透明な部分も多い。
 また、こうした業務活動の制限が業績に影響する可能性を指摘したのは9社あった。その理由には「医療従事者を対象とした講演会や研究会などの開催中止」「中国事業の停滞」などが挙がっており、電話会議やウェブを駆使した医療従事者との面談でマイナス影響を小さくする施策などを考えているようだ。
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 新型コロナの発生源とされる中国は原薬など医薬品原料の生産地で、医薬品の供給リスクが懸念される。インドは原薬の禁輸に踏み切った。こうした事情を踏まえて6社が医薬品原料のサプライチェーンを見直す可能性を指摘。現時点で見直す可能性を否定した企業も「最新情報を収集し、必要性を検討する」などと答えた。
 中国戦略を変えると回答した企業はゼロで、中国市場の重要性は今後も変わらないようだ。同国では湖北省を除いた地域ではおおむね終息への道筋が見えつつあるとされる。もともと国内製薬は中国の事業比率がまだ高くないという背景もありそうだ。

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