新型コロナウイルス感染症に対する治療法開発で、抗体を用いた取り組みが米国で始まっている。米イーライリリーと米バイオジェンは、同国やカナダのベンチャー企業とそれぞれ協力し、患者由来の抗体を元にした治療薬、予防薬の開発を目指す。米国でも新型コロナの感染者が増えて回復患者の血液サンプルを入手しやすくなってきた。大手製薬が生産や薬事手続き、流通などを担うことで、いち早い製品化を目指す。
 イーライリリーは、カナダのバイオベンチャー、アブセレラと提携して感染者由来のモノクローナル抗体を応用した抗体療法を開発する。アブセレラは、米国防総省傘下の国防高等研究計画局(DARPA)が約2年前に立ち上げた「パンデミック防止プラットフォーム(P3)」プログラムに参加しており、新型コロナ感染者からのサンプルを入手しやすい。同社は米国の回復患者から提供された血清をもとに、約1週間で500個以上の抗体を検出ずみ。次は独自のスクリーニング技術でさらに絞り込み、治療・予防効果が最も期待される中和抗体を選んで臨床試験を始める計画。向こう4カ月内の治験入りを目指す。開発後期からはリリーが製品化や製造、物流などを担い、各国当局との協議も始める。
 バイオジェンも、同社のジョージ・スキャンゴス前最高経営責任者(CEO)がトップを務める米ベンチャー企業、ヴィル・バイオテクノロジーと提携して開発参入する。ヴィルはSARS(重症急性呼吸器症候群)の回復患者から採取した血清サンプルを用いて、新型コロナウイルスに結合するモノクローナル抗体を複数検出している。さらにスクリーニングを進めて治療または予防効果が最も高い抗体を同定する。最終的な契約内容は開発と並行して詰めていくが、抗体のセルライン構築やプロセス開発、治験薬の供給をバイオジェンが担当する。
 ヴィルは先月、中国のCDMO(医薬品開発製造支援)大手ウーシー・バイオロジクスとも同様の契約を締結ずみ。ウーシーは中国向けの製造や販売を担う。
 患者由来の抗体を用いた治療法は、韓国のバイオ医薬品大手セルトリオンも開発に着手したもよう。韓国の医療機関を通じて回復患者の血液を入手し、抗ウイルス作用のある抗体を開発する。4月中にも治療薬候補を完成させ、早期の治験入りを目指すという。
 日本では、武田薬品工業が回復患者の抗体を用いて血漿分画製剤を開発することを発表している。同社が買収したシャイアーの事業基盤を生かした取り組みで、米国を中心に開発・製造する計画だ。

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