新型コロナウイルスによる感染症の拡大が収まりつつあり、中国経済は混乱の最悪期を脱したようにみえる。他方、各種統計が開示され始め、2020年第1四半期(1~3月期)は想定以上のダメージを受けていたこともみえてきた。中国の国内総生産(GDP)見通しを引き下げた日本総合研究所の関辰一主任研究員に現状を分析してもらった。

▼…新型肺炎の中国経済への影響について。

 「新型コロナウイルスが蔓延する以前は第1四半期には経済成長率が上向くと考えていた。中国政府は昨年から第5世代通信規格(5G)などハイテク分野で商用ライセンスの公布を積極的に始め、半導体投資に補助金をつけるなど設備投資も19年末から盛り上がってきていた。しかし、新型コロナの影響を受けた落ち込みは想定以上のものだ」

▼…第1四半期の中国の成長率見通しをマイナス1・0%へと大きく引き下げました。

 「徐々に影響が見え始め、足元では想定以上に悪い数字が出てきた結果だ。見通し引き下げの一番の根拠は各種報道や統計データをみると、操業再開率や生産量が想定以上に低かったということ。政府の強権発動で消費者の移動や外出、工場の操業や店舗営業などが抑制された。企業の経済活動は1月後半から2月半ばにかけて全国規模で停滞し、2月26日時点でGDPの60%を占める中小企業の操業(営業)再開率はわずか30%程度。2月最終週の完成車メーカーの操業再開率は75%だった一方、生産量は平時の30%にとどまった。人手不足や物流停滞などがボトルネックとなり、操業・営業を再開した企業もフル稼働には程遠い状況だ。これではマイナスにならざるを得ない。消費・生産の落ち込みを勘案すれば、マイナス幅がより大きなものとなる可能性もある」

▼…4~6月期以降は回復するとみています。

 「最悪期は脱したと考えている。例えば、広東省の操業再開率は2月10日時点で20%だったが、足元では70%以上に回復してきている。中国政府が経済活動の再開を指示したため、すでに80%以上の大企業は操業や営業を再開した。4~6月期にはプラス成長に持ち直すだろう。もっとも、部品生産や物流を担う中小企業の再開が遅れるなか、大企業の設備稼働率が元の水準に戻るには時間を要する。巡航速度の成長ペースに回復するのは7~9月期に後ずれするのではないか。20年通年の成長率は3・9%と考えている」

▼…政策対応でGDPの5%割れは防げるという見方もあります。

 「中国政府は金融リスクの回避を主軸に政策を組み立ててくると思う。確かに、財政政策の拡張が期待されるかもしれないが、中国は日本と違い、財政予算を上積みしてインフラ建設するわけではない。中国の財政出動は中央が地方の財政審査を緩和して、地方が借金を膨らまして鉄道や道路を作る。ただ、このやり方を放置すると地方政府が債務を抱え、そのつけを中央が払わざるを得なくなる。中央政府はこの間、地方の帳簿の精査を本格化し、景気の冷え込みを覚悟でデレバレッジ(過剰債務の削減)政策を進めてきたわけだ。そのスタンスを中長期的に崩すことはないだろう。もちろん、中小企業の連鎖破綻を救うために体力の弱いところに資金を回すだろうが、これはある程度仕方ない。あくまでも運転資金の補充であり、それが設備投資の拡大に結びつくわけではない」(聞き手=但田洋平)

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