【シンガポール=中村幸岳】東南アジアの化学品市場は域内諸国での都市・地域封鎖(ロックダウン)実施による経済活動の停止・縮小により、まだら模様となっている。ナフサ安を受け、エチレン設備はタイなどの一部設備でフル稼働が続く。ポリオレフィンは一定のスプレッド(原料との値差)を確保しているものの稼働率は低い。界面活性剤や各種工業用途で使うオレオケミカルは、主産地マレーシアで生産が再開され、需要も堅い。ただ化学品のスポット市場は全体的に消滅しつつあり、域内需要の先行きに懸念が強まっている。

ナフサ安で値差確保

 東南アジアではマレーシアやシンガポール、タイ、ベトナム、フィリピンで部分的なものも含め、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための罰則付きロックダウンが実施されている。ただこれらの国でも、化学品は必要不可欠な素材として生産継続が認められ、石油化学品やオレオケミカルなどの工場、供給者は事業を継続している。例えばシンガポールでは、化学品供給を担う商社や物流企業も同国貿易産業省に営業継続を申請でき、すでに営業継続が認められた例もある。
 東南アジアのエチレン市況(CFR)は足元、前週比5%程度減の1トン当たり430ドル前後、プロピレンは同550~570ドルと前週比1割程度下落した。
 エチレンセンターの動向をみると、タイのSCGケミカルズは足元、同国東部ラヨン県にある2つのナフサ分解炉をいずれもフル稼働させている。5月に予定していた両分解炉の定修も8月に延期する方針。「市況は下落基調だがナフサ安でスプレッドが確保できるいま、動かす時期とみている」(同社と取引のある企業)。一方、域内2位のエチレン生産能力を持つシンガポールの稼働率は相対的に低いもよう。
 なおアジアでは韓国勢が、ロッテケミカル・大山工場のエチレン設備停止もあり、LG化学を除き高い稼働率を維持している。

ポリオレフィン弱含み

 ポリオレフィンは、中国やタイ、インドネシア向けで自動車部品や家電に使うポリプロピレンの需要が大きく減少している。これに対し、食品用軟質フィルムに使うポリオレフィンは、外出禁止に伴う内食増加を背景に比較的好調に推移している。ある域内メーカーによると、包装材などに使うLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)は米国品に押されているものの、原料オレフィン価格の下落である程度スプレッドを維持できているという。
 塩化ビニル樹脂は、公共事業が継続されているインドネシアやタイで塩ビ管向けの引き合いが一部強いが、樹脂および加工メーカーの中には塩ビ管向けの生産を停止し、医療用などに絞った企業もある。塩ビも米国品が流入しており、域内市況は3月積みで1トン当たり700ドル前後と2月初頭に比べ約15%下落。先安感も強まっている。
 オレオケミカルは、域内ではインドネシアと並ぶ主要産地であるマレーシアで稼働が再開された。同国は3月末にロックダウンを強化したが、当局が稼働継続を認め、一度停止したプラントもペナン州にある複数工場(定修中含む)を除き、全土でメーカーが生産設備の稼働を再開したようだ。
 脂肪酸では、タイヤ製造時の離型剤など工業用に使われるステアリン酸や、石けん・シャンプーなどに使われるラウリン酸の生産はフル稼働に近く、インドネシアやタイ向けに出荷されている。

影響顕在化はまだ

 ただ経済活動停止による化学品市場への影響が顕在化するのはまだ少し先とみる向きが多い。東南アジア諸国のロックダウンは4月末から5月初頭の解除が予定されているが、実施が長引き自動車、家電工場の操業停止が延長されれば、樹脂や塗料などで過剰在庫の影響が深刻化しかねない。
 化学品の生産は継続されているが、自動車OEMや部品メーカーは過剰在庫を嫌うため、在庫を積み増すメーカーやディストリビューターも少なくない。また国によっては幅広い業種の顧客で債権回収の遅れ、与信リスクの高まりが懸念される。
 ある商社によると、中国では浙江石化や恒力石化(ヘンリー)が、新設した製油所・化学品コンビナートの稼働率を徐々に高めつつあり、一部モノマーの輸出が増える可能性もある。中国勢の稼働再開が東南アジア市場に及ぼす影響も注目される。

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