新型コロナウイルス感染症が各国で広がり、治療薬の実用化がいち早く望まれている。まず臨床応用が試みられているのが、ほかの疾患の治療薬として開発された既存の医薬品を転用した治療法だ。日本では現時点で5つの治療薬候補が臨床開発段階。当初は観察研究として使われ始めたが、国際的な臨床試験や企業主導の大型試験が開始された治療薬もあり、早ければ今月中には一部の速報データが明らかになる見通しだ。br />  日本で新型コロナに対する観察研究・臨床試験が行われている医薬品は4月上旬時点で、富士フイルム富山化学が創製した新型インフルエンザ治療薬「アビガン」、米ギリアド・サイエンシズがエボラ出血熱治療薬として開発していた「レムデシビル」、帝人ファーマの喘息治療薬「オルベスコ」など5品。
 アビガンは、新型コロナと同じRNAウイルスであるインフルエンザウイルスの増殖を防ぐ効果があることから、早期から治療薬としての転用が期待されてきた。3月中旬には、中国の臨床試験で良好な結果を得たと報告されている。このほど富士フイルム富山化学による国内第3相臨床試験(P3)がスタート。100人程度の患者を対象に6月末まで行われる予定だ。
 同剤は、新型コロナウイルスの感染阻止が期待される薬剤として東京大学が発表した日医工などの急性膵炎治療薬「フサン」と併用する試験も国立国際医療研究センターなどで計画されている。
 海外でいち早く大規模な臨床試験が始まったのは、ギリアドのレムデシビルだ。米国立衛生研究所(NIH)が2月末に立ち上げた国際P3に日本も参加することがが決まり、このほど国立国際医療研究センターで症例登録が始まった。肺炎症状がある重症患者を対象に国内外で約440例を組み入れ、4~5月に速報データが明らかになる見込み。ギリアドによる企業治験も始まっており、日本を含む国際共同治験として2本実施。計1000例の患者を組み入れる。
 新型コロナウイルスの複製を阻害することが国立感染症研究所により確認されたオルベスコも、肺に影響がある患者を対象とする観察研究、臨床研究が国内で計画されている。
 このほか日本で開発が検討されている治療選択肢は、回復患者の血清から得た中和抗体を別の重症患者に投与して免疫活性を高める治療法(抗体療法、血漿分画製剤)や、重症患者で起こる免疫の過剰反応(サイトカインストーム)に対する抗体医薬などがある。
 抗体療法では、武田薬品工業が買収したシャイアーの血漿分画製剤事業を活用した治療法「TAK-888」の開発に着手。米国を中心に開発を進めるが、日本向けにも開発を検討中。日本医療研究開発機構(AMED)と日本製薬工業協会(製薬協)も連携して中和抗体による治療法開発を計画しており、製薬協の会員企業3社が協力する意向を示している。
 サイトカインストームに対する治療では、中外製薬が創製した抗体医薬「アクテムラ」などが有望視されている。元々は関節リウマチなどの治療薬だが、中国では新型コロナ治療薬としても推奨された。スイス・ロシュが海外で臨床試験を始めており、中外製薬もこの試験に参加するか検討中だ。

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