新型コロナウイルスの感染拡大の中心地はいまや、中国から欧米へと移った。欧州では爆発的な感染に見舞われたイタリアを皮切りに各国が相次ぎ移動制限や大規模な行事の中止に追い込まれている。感染防止のための厳しい措置は経済活動を犠牲にせざるを得ない。欧州経済に詳しい第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは今年のユーロ圏経済がマイナス成長に転落することは避けられないとみる。

◆…イタリアの感染拡大が深刻です。

 「イタリアは観光やファッションのイメージが強いが、欧州を代表する工業国の顔を持つことも忘れてはならない。感染者がとくに多い北部は豊かな工業地帯として知られ、輸出企業が多いのが特徴だ。感染者が最も多いロンバルディア州(州都ミラノ)は金属製品や化学工業が盛んであり、GDPの2割以上を稼ぎ出す。2番目に多いエミリア・ロマーニャ州はセラミックタイルや包装機械、繊維アパレルの生産地だ。多くは欧州を中心に世界各国に輸出されている」

◆…周辺国への影響は。

 「独仏やスペインにとってイタリアは中国と同等かそれ以上の貿易相手国だ。対中依存度の高いドイツこそ中国向け輸出が上回るが、フランスやスペインにとっては中国以上の輸出市場。イタリアはまた独仏の企業にとって重要なサプライヤーでもある。イタリアの製造業を対象とした調査では最終製品を製造している企業が35%、サプライヤー企業が65%を占め、後者の7割超が他国へ輸出している。供給網に組み込まれている製品も多く、経済活動のまひが続けば、周辺国にも大打撃となる」

◆…20年のユーロ圏の実質GDP成長率見通しがマイナス1・1%になると予想しています。

 「ユーロ圏の7割以上の経済規模を占める伊独仏西の4カ国をはじめ、各国が相次ぎ厳しい経済活動制限措置を講じている。域内外での移動制限は観光や小売など内需関連産業に深刻な影響を及ぼす。地理的近接性もあり、貿易面での相互依存度も高い欧州の弱みが露見した格好だ。瞬間風速的にはリーマン・ショックを上回る落ち込みとなり、年前半のユーロ圏経済がマイナス成長に転落することは避けられまい。これはかなり保守的な前提に基づいた見通しで、感染ピークアウト時期の後ずれ、供給網の混乱、金融市場のさらなる動揺が起きれば、景気後退の深さと長さは簡単に膨れ上がる。5~6%のマイナスでも驚かない」

◆…感染が収束してきた中国にとっても欧州の停滞は痛手です。

 「中国は今後、消費活動が再開し、工場の再稼働期を迎える。中国向け輸出の大きいドイツなどにはプラスのはず。ただ、欧米の消費活動が停滞していることから中国の輸出市場は需要鈍化に直面している。生産再開後も中国の輸出回復が抑制され、資本財が中心のドイツの中国向け輸出も伸び悩む可能性がある」

◆…経済見通しについて。

 「欧州全域で影響が顕在化したのが3月中旬以降のため、1~3月期よりも4~6月の成長率が大幅に押し下げられる。4~6月中に感染拡大が一服すると楽観視するなら7~9月以降の景気は回復軌道に戻るだろう。ただ、一服した後も観光客の戻りは鈍く、労働者の復帰にも時間を要する。本来のV字回復ではなく、反発は力強さに欠ける展開となるのではないか。感染のピークを終えた国に遅れて感染が拡大する国からの第2、第3の波が及ぶことも懸念する」

◆…危機の最中、欧州の国々に経済を下支えする力は残っていますか。

 「金融、財政ともに政策の余力は乏しい。ただ、非常事態なので規律を無視した財政出動は許容されるだろう。それでも政府の借金が増えることに変わりはない。特に、借金の多いイタリアは返済能力が不安視される。万が一、格下げされて投資不的確になれば金利が急騰し、債務危機の懸念も生じる。いまこそ、各国政府が野心的かつ協調的な対応強化に動く時。医療物資の抱え込みや国境管理の強化など自国のことだけを考える国が増えているのは悲しい現状だ」(聞き手=但田洋平)

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