中国では新型肺炎の発症者増に歯止めがかかりつつあり、企業活動も正常化してきている。他方、化学工業日報社のアンケートでは、操業再開が本格化するなかで、再度の感染拡大を危惧する声も多い。景気のゆるやかな回復を期待する一方、通年では年初の落ち込みを取り戻せないとの意見が大勢だ。各社にとって中国ビジネスの重要性は高まるばかり。だが、日中間での渡航規制が工場や営業活動の再開に暗い影を落とし始めている。
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 2月中旬以降、多くの日系化学企業が従業員を出勤させ始めている。もっとも、新型コロナウイルスの感染リスクを最大限考慮し、また、営業活動は本格化にはほど遠いことから、従業員の出社に対して「時短勤務や交代出勤(シフト制)などを導入している」と答えた企業は45社と全体の8割に上った。
 従業員の出勤方法については「鉄道やバスなど公共交通機関を推奨する」企業もあれば「禁止する」との回答も多く、各社の判断はさまざま。「他者との接触リスクを恐れて公共交通機関を禁止する」(商社)、「地下鉄もバスも空いており、タクシーの方がよほど濃厚接触のリスクがある」(メーカー)などの声が聞かれる。「社有車による出勤のみ許可する」企業も全体の1割に上り、「一時的に自家用車での出勤も認めている」企業もある。


 また、「今後、従業員が中国で感染する危険を感じるか」との設問では、「十分ある」(45%)、「かなり低い」(46%)と意見は真っ二つ分かれた。十分あるとの回答者に理由(複数回答可)を聞いたところ、「経済活動の本格化にあわせ他者との接触機会が増える」が6割と多く、「今後、地方からUターンしてくる者が増えるから」も5割弱あった。
 2020年第1四半期(1~3月期)の経済減速は避けられない情勢だが、4~6月期の中国の国内総生産(GDP)見通しについては「ゆるやかに回復する」との回答が半数を占めた。


 通年見通しでは、経済協力開発機構(OECD)が2日、中国が3月末までに感染拡大のピークを迎えるとの前提で試算し、前回予想から0・8ポイント下げた4・9%とし、1990年以来の低水準を見込んだ。アンケートでも「5%割れもありうる」が4割となり、「1~3月期の落ち込みを完全に取り戻すのは難しい」(メーカー)との見方が広がっている。
 みずほ総合研究所の三浦祐介主任研究員は通年の見通しを5・7%としたが、発電用石炭消費や住宅取引軒数など日次データは正常化にほど遠い状況にあるとし、「工場の稼働率も5割程度のところが多く、成長率はより低い水準まで下がる可能性が高い」とみている。


 今後の事業再開上のボトルネックについての設問(複数回答可)では、6割近い企業が「省・市をまたぐ物流の制限」や「取り引き先の操業が再開していない」を挙げた。工場を持つ企業では「マスクなど防疫品の不足」が深刻で、「工場の本格再開期に作業員が増えるなか、マスクや消毒液が足りなくなる可能性がある」(繊維メーカー)との危機感もにじむ。


 「今後の中国ビジネスの位置づけ」の設問では、「リスクが拡大し、投資や拡大戦略にブレーキがかかる」との回答が1割あったものの、8割近い企業は「新型肺炎の影響は一過性であり、重要性は変わらない」とした。東京財団政策研究所の柯隆主席研究員は「化学は資本集約型の産業であり、物流システムやインフラ、労働力を総合的にみれば、移転は難しい。中国は引き続き最重要地区にならざるを得ない」と話す。


 在中日系化学企業にとって目下の最大の関心事が日中の往来規制だ。上海市や北京市は3日、日本からの入国者を2週間、自宅や施設で隔離することを決めた。中国へのビザ(査証)の発給も事実上停止した。日本政府も5日、中韓からの入国者に宿泊・医療施設などでの2週間の待機を要請することを決定した。
 アンケートの自由回答でも、「半数以上の駐在員を日本に留めており、再赴任のタイミングに頭を悩ませている」、「重要顧客との商談のために日中間を往復するのに4週間の隔離を経験する必要が出て来た」など、多くの企業で従業員が身動きがとれない状態だ。「今後は、日中間の人やモノの流れが長期にわたって滞る恐れがある」(メーカー)など、肺炎拡大が終息した後も経済活動の低迷が続くことを懸念する意見が多かった。(但田洋平)

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