新型コロナウイルスの登場から3カ月半。PCR検査の次に、感染有無に加えて免疫獲得の可否を判別する「抗体検査」が重要になってきた。集団免疫の推定、医療資源の有効活用、社会・経済活動の正常化の判断指標に利用できる。ただ、国の評価では市販のイムノクロマト法検査薬の精度は低い。より精密な酵素免疫測定法(ELISA)の開発も始まったばかり。検査対象が膨大になるだけに商機は巨大で、米国や欧州に遅れることなく日本も抗体検査の位置付けを明確にしなければならない。

 ウイルス(抗原)に感染すると血液中には抗体(免疫グロブリン)が発現する。感染初期には免疫グロブリンM(IgM)、感染からしばらく経つと同G(IgG)が現れる。「IgM陽性・IgG陰性」は感染初期を、両方が陽性であれば感染真っただ中をそれぞれ示し、「IgM陰性・IgG陽性」は免疫を獲得した状態を表す。一般的にこれらを迅速に測定できるのがイムノクロマト法で、高精密に測れるのがELISAだ。

 国内外でいち早く開発が進む抗体検査はイムノクロマト法を用いているが、精度の課題が浮上している。国立感染症研究所がPCR検査で陽性と診断された新型コロナ患者の血液を用いて市販のイムノクロマト法の検査薬を調査したところ、発症6日後までのIgGの検出率は約7%、同7~8日後は25%、発症9~12日後は約52%、発症13日後以降は約97%だった。

 この調査は陽性者のみを対象にした調査で、非感染者や無症状感染者をどれだけ見分けられるかは現段階では不明。ただ、調査ではIgMの検出率は総じて低く、感染初期や免疫獲得者を把握するには性能をもう一段高める必要がある。

 イムノクロマト法ではデンカが2~3カ月以内に試作品を完成させる計画のほか、横浜市立大学と関東化学も連携して開発を進めている。検査薬は積み重なった研究成果が新製品に反映され検査精度を増すタイプの商品なだけに、今後の開発に期待がかかる。

 さらにELISA法ではシスメックスや横浜市大が製品開発に取り組んでいる。とくにシスメックスは地域の医療機関にも設置しやすい小型装置用と大量の検体を処理できる大型機種向けの両面で開発を進めている。

米、無症状感染者の実態解明 1万人を抗体検査

 米国では新型コロナの無症状感染者に対する抗体検査が始まろうとしている。感染しても無症状や軽症のまま免疫を獲得している人は多いとされる。米国立衛生研究所(NIH)は、米国内の健康成人1万人から血液を集め、無自覚のまま新型コロナに対する抗体を持っている人の数や特徴などを研究するプロジェクトを開始した。

 感染しても無症状/軽症で、気づかぬうちに新型コロナに対する抗体を獲得している人は多いとされるが、詳しい実態はわかっていない。NIHが開発したELISA法の検査で、新型コロナウイルスに対するIgGとIgMを測定する。

 欧米ではロックダウンが続いている地域があるが、抗体保持者には「免疫成立証明書」などを発行し、外出制限を緩和して医療崩壊の阻止や経済活動の再開につなげようとする動きも出ている。

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