新型コロナウイルス感染症の流行拡大阻止に向け、国内研究機関や大学が成果や知的財産、設備などを開放する動きが広がっている。理化学研究所(理研)は、新型コロナウイルスの構造動態に関するシミュレーションデータを公開。東京工業大学は保有する特許131件を無償提供する。治療薬などの早期実用化に貢献していくのが狙いだ。

 理研生命機能科学研究センター計算分子設計研究チームの泰地真弘チームリーダーらは、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼの構造動態をシミュレーション、その結果を公開している。「世界の創薬研究者に自由に利用してもらう」(理研)のが目的で、ウイルスの増殖に欠かせない役割を担うプロテアーゼの活性を効率良く阻害する医薬品の開発、候補分子のスクリーニングに役立つとの期待を寄せる。

 同センターの専用計算機を使ってまとめた。すでに報告のあったX線結晶解析のデータを活用。細胞内に近い状況で分子間相互作用を解析できるMDシミュレーションという手法によって、10マイクロ秒間における同ウイルスのメインプロテアーゼの動きをデータ化した。

 水溶液中のたんぱく質と薬剤の分子間相互作用の一般的なタイムスケールを踏まえると、今回の公開データは薬剤分子が結合する直前の動態を推定する上での基礎情報になるとしている。今後、治療薬の候補化合物との結合した際のシミュレーションなど検討を深めていく方針。

 一方、東京工業大学は同大で持つ特許を無償で開放する取り組みをスタートした。対象となるのは、新型コロナウイルスの感染拡大以前に取得した131件の特許。ペプチドを利用したスクリーニング技術のような創薬、プラズマを使った包装容器の殺菌技術といった感染の拡大阻止につながる技術のほか、化学やエレクトロニクスなどさまざまな分野の特許をラインアップしている。

 今回の新型コロナウイルスの流行で生じた深刻な影響を克服し、社会に貢献するための「社会再起動技術推進事業」の第一弾プロジェクト。申し込み期間は来年2月28日までで、企業などは最長2022年12月31日まで無償で使うことができる。

 このほか、高輝度光科学研究センターが大型放射光施設「スプリング8」を新型コロナウイルス感染症治療薬開発に向けて設備を提供することを決めており、テーマの防臭を行っている。東北大学加齢医学研究所は、免疫受容体解析ツールの無償開放に踏み切り、新たな診断・治療法の研究開発を支援する体制を整えた。

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