いまだ収束の兆しがみえない新型コロナウイルス感染症。長期化するなか、われわれの生活様式や働き方は大きく変化し、厳しい状況に追い込まれている業界も多い。ただ、先行き不透明なこの状況下において、各企業によるコロナ対策に向けた挑戦が始まっている。関西では新型コロナウイルス感染症の拡大を防ごうと、「地」「水」「空」の各方面から新型コロナウイルスを検出したり、除去したりしようとする動きが進展している。

 <「地」 小池産業、PCR検査サービス参入 検査所で24時間以内に通知>

 化学品専門商社の小池産業(大阪市中央区)は、新型コロナウイルス感染症検査サービスに注力している。2020年秋に大阪大学発ベンチャーのビズジーン(大阪府茨木市)の迅速に正確な判定が得られる研究用抗原検査キットを発売したのに続いて、PCR検査サービスに乗り出し、さらにワクチン接種の普及により需要が増してくるとみられる抗体検査キットの取り扱いも開始する。

 PCR検査サービスはジー・キューブ(神戸市)と協力している。小池産業は取引先など企業を中心に唾液を採取する方式のPCR検査キットを販売しているが、ジー・キューブが運営する大阪北部の彩都と大阪府八尾市の2カ所の衛生検査所で検体を調べ、利用者らのスマートフォンなどに陰性か陽性かを通知する体制を整えている。

 衛生検査所では4検体プール方式を採用している。プールで陽性判定が出た場合、1検体ずつ確認し、陽性者を特定する。感染有無の結果は検査所に検体が届いてから24時間以内に知らせる。

 八尾市の衛生検査所は21年6月に設けた。小池産業が八尾市にPCR検査キットを寄贈したといったことが縁となり開設にいたった。彩都では一般消費者や企業などから送られてくる検体を検査するのに対し、八尾は八尾市内の学校と認定こども園で発生する濃厚接触者を対象としている。八尾では濃厚接触者以外も検査できるようにしたい考えで、準備を進めている。また、同市に隣接する羽曳野市、藤井寺市、柏原市の独自の保健所がない大阪の3市に八尾の検査所の活用を働きかけている。

 PCR検査サービスではスポーツチーム向けに「スポーツ用PCR検査キット」を提案。鼻孔から約2センチメートルの個所のぬぐい液を検体とするもので、採取直前の飲食、歯磨き、うがいの禁止という制約がない。唾液タイプのキットと同様に検体は衛生検査所に郵送し、24時間以内に結果を通知する。スポーツ用はすでに関西ラグビー協会に紹介しており、今後は大学の競技団体にも紹介する。

 <「水」 塩野義が下水疫学調査>

 塩野義製薬の新型コロナウイルスに関する取り組みではワクチンや治療薬の開発に加え、下水疫学調査サービスも実施している。下水処理場において一定の頻度でサンプリングされる流入下水から塩野義製薬がウイルスRNAを濃縮し、高感度検出技術を生かしたPCR検査でウイルスRNA濃度を測定するもので、各自治体が地域の感染状況を把握するのに役立てられる。6月中旬にサービスの提供を始めており、問い合わせが寄せられている。

 新型コロナウイルスは腸管で増幅し、感染者の症状の有無に関わらず糞便中から見つかることが報告されている。欧米では下水中のウイルスを検出することで、それぞれの地域の感染度合いを知ろうとする試みが行われている。

 ただ、日本で下水疫学調査を取り入れようとする場合、欧米などと比較し人口あたりの感染者数が少なく、下水中の新型コロナウイルスの濃度が低いため、感度の高い検出技術が求められていた。この課題を解決するため塩野義製薬は北海道大学と共同で高感度検出技術の研究に努めてきた。21年4月からは大阪府の協力のもと、下水処理場の流入下水のモニタリングを続け、開発した高感度検出技術を駆使して新型コロナウイルスの定量的検出が可能であることを確認した。

 事業化した下水疫学調査サービスに使用している測定系は従来法に比べ約100倍高い。数万人あたり感染者数が数人でも検出できる精度を誇る。この技術・システムを導入することで、人口とウイルスRNA濃度の相関からその地域で感染者数が増加しているのか、ピークに達しているのか、峠を越しているのかなど、ある程度感染状況がわかり、状況に応じて対策を講じるうえで一つの客観的な指標として用いることができる。

 <島津も下水PCR検査>

 島津製作所も下水PCR検査の受託事業を手がけている。グループの島津テクノリサーチ(京都市中京区)が主体となり、高齢者施設といった個別の施設の下水を監視し、新型コロナウイルスの感染状況の把握につながる事業を実践している。採取したサンプルから陽性反応が出ると、入居者らにヒトPCR検査を行い、感染者を特定し、クラスターの発生を未然に防ぐ2段階のPCR検査システムで、「京都モデル」として普及させようと励んでいる。

 京都大学などの技術指導を受けて基礎技術を確立した京都モデルの社会実装に向け今春、京都府と京都市の協力を得て、中等症患者が入院する医療機関および軽症患者が滞在する療養施設で実証実験を実施した。島津テクノリサーチが独自開発した新型コロナウイルスを吸着できるサンプラー「PoP-CoVサンプラー」をマンホールに設置し、採取した下水試料から陽性反応を捉えた。

 111人が利用するオフィスビルの下水試料からも陽性反応を捕捉できた。後日、行政が行ったヒトPCR検査でこのオフィスビルの利用者1人が新型コロナウイルスに感染していたことが判明。島津テクノリサーチの下水PCR検査の実施は発症日(陽性確定日の4日前)、あるいはその前日だったことから、建物単位での下水PCR検査は感染の早期発見に有効であることを実証できた。

 今年5月中旬に京都モデルの提供を開始。高齢者施設のほか、学校、保育所、宿泊施設などに提案を進める。追加料金となるが英国で発見された「N501Y」、南アフリカやブラジルで見つかった変異ウイルスに共通の遺伝子「E484K」、そしてインドで流行し日本でも広がりつつある「L452R」の変異種にも対応可能。

 京都モデルは現在、約10カ所で使われている。試料採取を専門とする業者と提携するなどしながら採用実績を積み重ねていく。

 <早期社会実装に向け塩野義と島津が提携>

 塩野義製薬と島津製作所は6月上旬、新型コロナウイルスを含む感染症領域の下水モニタリングの早期社会実装に向け、業務提携に関する基本合意書を締結した。今後、基準作りに取り組み、それぞれの強みを融合し、アカデミアやパートナー企業とも連携しながら下水中のウイルスの自動検出、モニタリングデータをもとにした感染状況や変異株の発生動向などを早期に検知可能とする下水モニタリングの社会システム構築を目指す。

 <「空」 ミラテクドローンなど、抗菌・抗ウイルスコーティング、大規模会場ドローンで>

 産業見本市や国際展示会、コンサート、スポーツ大会といった大規模イベントの開催が制限されるなか、ミライト・ホールディングスのグループ会社であるミラテクドローン(東京都品川区)は、大規模なイベント会場を対象にドローンを活用した抗菌・抗ウイルスコーティングサービスを提供している。同サービスの事業化において寄与したのがパートナーの1社であるサンクレスト(大阪府東大阪市)。サンクレストの一価銅化合物を応用した抗ウイルス・抗菌商品「Cu+ブロック」をドローンを使って会場内に散布したところ、付着が認められたため、同サービスの開始にいたった。

 ドローンパイロットを育成する研修サービスや、広域でのドローン運航支援・代行サービスの提供、機体・システム販売などを行うミラテクドローンは抗菌・抗ウイルスコーティングサービスの実用化に向け、20年9月からパートナーのサンクレストと、ドローン開発を担当する東光鉄工(秋田県大館市)とともに実証実験を重ねてきた。

 サンクレストが製造、供給するCu+ブロックは1分間でウイルス除去が可能で、即効性に優れる。手で触っても簡単に一価銅化合物ナノ粒子がはがれることなくコーティングが維持される。新型コロナウイルスに対して短時間での不活化効果を示すことも確認ずみ。

 ドローンは農薬散布用として開発された機体をベースにコーティング用にチューニング。大空間でも効率的なコーティングが可能なうえ、通常毎日行っていた除菌作業を1カ月に1回程度に減らすことができるなど施設内のメンテナンスを大幅に軽減できる。

 1000人以上収容可能なホールがあるホテル、1000席以上の文化会館、野球・サッカー・陸上スタジアムなどが主なサービス対象となる。このほかにも抗菌・抗ウイルス需要の高まりから、テーマパーク・遊園地などのアミューズメント施設、学校・病院・介護施設のエントランスといった幅広いニーズが想定される。大規模イベントの主催者や施設運営者が感染対策に頭を悩ますなか、感染防止と社会経済活動の両立を図る新サービスとして注目されている。(細井康弘、池田旭郎、安宅悠)

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