新型コロナウイルスの特性解明などに、オルガノイド(ミニ臓器)を使おうとする取り組みが広がりを見せている。横浜市立大学と国立成育医療研究センター(成育研)のグループは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の“ミニ腸”で増殖性を検証し、各株の特徴を明らかにした。京都大学のチームは気管支オルガノイドモデルの開発に成功、治療薬開発に利用できるようにした。

 横浜市大の梁明秀教授、宮川敬准教授、成育研の阿久津英憲部長らは、新型コロナウイルスの増殖性などを調べるため、ヒト由来のiPS細胞から腸オルガノイドを作成し、実際に感染させることで特性解明を行った。従来株、デルタ株、オミクロン株BA.1、動BA.2のそれぞれで検証したところ、株間で大きな違いがあることを見いだした。

 まずデルタ株の場合、従来株に比べ4~6倍の高い効率性で増殖することが分かった。このため、感染した細胞と隣接する細胞の間で融合が進み、クラスターを形成。その結果、細胞が傷つけられたり、炎症性サイトカインが広がったりする状況が拡大し、重篤化につながっている可能性があることを示した。

 反面、オミクロン株については、腸管組織内での感染・増殖性が著しく低いことも割り出した。BA.1、BA.2ともに同様の傾向で、細胞障害や炎症関連因子の上昇に関してもほぼ確認できず、腸管では増殖しにくいなど、デルタ株とは大幅に異なる性質であることを突き止めた。

 グループが腸に着目したのは、新型コロナウイルスが体内に侵入する際に欠かせない因子「ACE2」などが腸管表面の粘膜上皮細胞で発現しているからだ。さらにオルガノイド化することで、より人体に近い条件での検証が可能となる。研究グループではオミクロン株などによる病態解明や創薬研究に役立つ成果だとしている。

 京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の高山和雄講師らは、大阪大学微生物病研究所の岡本徹教授らとともに、新型コロナウイルスに効率よく感染する気管支オルガノイド(BO)モデルを作成した。同ウイルスが呼吸器に感染しやすいことに注目。感染モデルとして利用できるようにした。治療薬候補の評価、感染メカニズムの解析などに使うことを見込んでいる。

 実際に開発したBOモデルに新型コロナウイルスを感染させると、気管支を構成する線毛細胞には効率的に感染するものの、基底細胞にはほとんど感染しないことが判明した。感染を通じ、線毛細胞は死滅する一方で、基底細胞は生存することも確認。併せて、生き残った基底細胞が線毛細胞を含む気管支上皮細胞に分化していくことも突き止めた。

 また、薬事承認を受けている品目を含めた新型コロナウイルス治療薬でBOモデル有効性も検証した。すると、いずれもウイルス量が減少しており、薬効評価に使えることが証明できた格好だ。

 ただ、今回開発したBOモデルでは気管支炎などの模倣ができていないそのため、研究チームは、免疫細胞を含むモデル確立を今後の課題に位置づけている。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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