新型コロナウイルスワクチンの供給増加に向けて、製薬企業が保有する製造特許などを一時的に放棄させる議論が世界貿易機関(WTO)で始まろうとしている。これまで放棄に消極的だった米国が支持側に転じたが、欧州では慎重な意見が多く、ワクチンを他国に輸出しない米国を非難する声も出ている。WTOは全会一致が原則で、交渉には数カ月かかる見通し。

 バイデン米政権が5日、コロナワクチンにかかわる特許権の一時放棄を支持する意向を表明し、各国に波紋が広がっている。欧州連合(EU)も7、8日の首脳会議で議論したが、供給増加に対する「即効性のある『特効薬』ではない」(フォンデアライエン欧州委員長)として否定的な意見が多かったもよう。とくに反対しているのがドイツとフランス。マクロン仏大統領は、ワクチンや原材料の輸出を禁止している米国などを批判し、「まずはアングロサクソンが禁輸措置をやめるべきだ」と主張した。

 コロナワクチンの主力となっている米ファイザー製や米モデルナ製は、メッセンジャーRNAを使う新型ワクチン。知財が放棄されたとしても、新たな第三者が迅速に製造体制を構築し、大量生産するのは難しいという。

 製薬業界も反発。日米欧などの各製薬団体やワクチン開発企業が相次ぎ声明を出し、知財放棄がワクチンの早期供給や感染症克服にはつながらないと主張している。

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