東京大学と同大医学部附属病院、杏林大学の研究グループは、新型コロナウイルス感染による脳内の細胞変化を動物モデルによって明らかにした。その結果、従来のウイルス・細菌が感染した時とは異なる変化が多いことが分かった。また、同ウイルスによる感染が、臭いの感じ方の変容といった嗅覚にかかわる認知機能や記憶に影響している可能性を示唆する結果も得た。

 新型コロナウイルスに感染すると、呼吸困難のほか、認知機能の低下、強い倦怠感の持続といった症状が出ることが報告されている。さらに頭がぼーっとするなどの中枢神経症状が出ることも少なくない。感染後、脳の構造が変化するとの報告が海外から出ているが、細胞レベルを対象とした研究はなかった。

 そこで研究グループは、新型コロナウイルスに感染させたハムスターをモデルに解析を行った。感染後、嗅上皮の一部に障害が残るなどの報告を踏まえ、「感染後の中枢神経症状は嗅覚入力の減少によるもの」との仮説を立て、嗅覚にかかわる嗅球と嗅皮質、記憶に関係する海馬での神経細胞、グリア細胞の形態をそれぞれ調べた。

 すると、新型コロナウイルスの場合、嗅球の炎症細胞ミクログリアが、感染後17日でもいぜん活性化していることが判明。上気道炎症では感染後9日で正常に戻っていることから、これまでとは違う脳の免疫応答が生じている公算が大きいとの見方を示した。また、感染させなかったハムスターと比べると、嗅球全体の糸球体サイズが縮小しているといった差があることなども突き止めた。

 一連の成果は動物モデルから分かったため、ヒトの臨床症状と一致するかは不明だ。ただ、これまでのウイルスなどとは異なる点が多いと研究グループは指摘。病態解明や治療法確立に貢献する成果だとしている。

 米テキサス大学との共同研究成果。詳細は英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」電子版に掲載された。

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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