新型コロナウイルスの特性解明・治療薬開発をめぐり、スーパーコンピューターなどを活用する取り組みが相次いで立ち上がってきた。文部科学省は7日、新型コロナウイルスの研究・対策に開発・整備中のスパコン「富岳」を前倒しで提供すると決定。具体的なテーマも示した。東北大学も量子コンピューティング技術を使った新規プロジェクトを国内外の企業とスタートする。
 理化学研究所(理研)に設置され、2021年から共用運用を計画する富岳については、現時点で提供可能な能力を新型コロナウイルス関連の研究開発に優先して投じていく。①性質の解明②治療薬候補物質の探索③診断法・治療法の向上④感染拡大や社会経済的影響の解明⑤その他-の5テーマを掲げ、同省が支援対象を随時決定する。
 第1弾として、京都大学の奥野恭史教授による「新型コロナウイルス治療薬候補の同定」、理研の杉田有治チームリーダーによる「新型コロナウイルス表面のたんぱく質動的構造予測」など4プロジェクトを選出した。必要に応じ、技術支援も行う。
 このうち、奥野教授らは約2000種類の既存薬から、新型コロナウイルスの標的たんぱく質に高い親和性を示す候補物質の探索・同定に富岳を利用する。複数の薬剤によるたんぱく質に対する作用を同時に評価できるのも利点で、併用療法の可能性を探れる。新規医薬品の創出につなげることもできる。
 一方、東北大は量子コンピューティング技術の一つである「量子アニーリング」を利用、新たな研究開発プロジェクトを開始する。量子コンピューターの開発を手がけるカナダのベンチャー、Dウェーブ・システムズが進める国際プロジェクトに参加するかたちで実施し、同社が提供する量子アニーリングマシーンを使う。
 量子アニーリングは、膨大な数の候補のなかから最善の選択肢を見つけ出すことに向いている。そのため、組み合わせの最適化問題を速やかに解く技術として注目を集めている。今回の場合、たとえば、ウイルスの遺伝子情報に基づいた治療薬の設計、医薬品物流や入院患者の割り振りの最適化などに使うことができるとみている。
 同大のほか、日本からはデンソーや京セラ、京セラコミュニケーションシステム、NECソリューションイノベータ、シグマアイ(東京都港区)が加わる。国際的な産学連携を通じ、新型コロナウイルス問題解決への貢献を目指す。

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