中国における新型肺炎の感染者数は、強力な感染防止策が奏功して新たに見つかる感染者数が減少傾向にある。ただ、今後、経済活動の再開が本格化するなかでは予断を許さぬ状況が続き、中国政府が打ち出す経済対策は金融リスク増大の危険性もはらむ。中国経済に詳しいみずほ総合研究所の三浦祐介主任研究員に今後の中国経済の展望を聞いた。
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 - この間の感染の広がりをどうみていますか。
 「とにかく発生のタイミングが悪かった。まずは春節という人の移動が最も活発な時期に起きたこと。次に、2018年から続いた景気悪化に歯止めがかかり始めた最中だったこと。米中が第1段合意に至り、ITサイクルの底入れなど製造業も回復傾向にあった。新車販売も最悪期から脱却するなど内外需の改善が期待でき、20年は緩やかな回復を想定していたが、見通しの前提が崩れた。今後、実体経済では家計消費が落ち込み、需要減・供給制約によって企業部門の生産活動も停滞するだろう。企業収益の悪化は金融部門にも波及し、再編が始まった地方銀行の経営を一層悪化させる可能性もある」
 - 20年の実質国内総生産(GDP)見通しは。
 「感染拡大防止策の影響で春節前後の経済活動は大きく縮小した。問題発生初期はSARS(重症急性呼吸器症候群)時の落ち込みなどを参考にし、1~3月期の実質GDP成長率は4・6%程度まで落ち込んだ後、下半期には遅延分の投資再開やインフラ投資などの追加経済対策による押し上げが発生すると想定し、通年では5・7%程度になると試算していた。ただ、観光や小売などの業界で春節期間中に発生した損失はかなり大きい。足元では多くの企業が操業を再開しているものの、実際の稼働率は良くて5割程度という印象だ。発電用石炭消費や住宅取引件数などの日次データをみても、正常化にはほど遠い状況にある。成長率はより低い水準まで下がる可能性が高いと考えている」
 - 中小企業の資金繰りの悪化が懸念されます。
 「中央政府は小規模零細企業に対する資金繰り支援策を中心に経済、金融、雇用の安定化策を順次公表している。大規模な流動性の供給や特定企業を対象にした再貸出の実施、金利負担を下げるための利子補給など、緊急事態への対策として止むを得ない側面があるが、結果的に過去数年で取り組んできた金融リスク対策、デレバレッジ(過剰債務の解消)が一時先送りされることになる」
 「そもそも、政府はシャドーバンキング規制強化で資金調達が困難になった中小零細企業に対し、18年後半から貸出強化による資金繰り支援をしてきた。今回は新型肺炎対策ということでまた銀行貸出を増やすわけだ。零細企業は不良債権比率も高いため、将来的に銀行のバランスシートに跳ね返るリスクがある。そうなれば銀行貸出が抑制され、実体経済を押し下げるという負の循環に陥りかねない。金融政策のもたらす副作用には引き続き警戒する必要がある」
 - 新型肺炎の影響では、化学産業への深度が大きいと分析しています。
 「国際産業連関表をもとに、当社では国・地域別、業種別の影響を試算してみた。国・地域では中国からの部材供給などが滞ることでベトナムやマレーシア、タイなど東南アジアの国などに大きな影響がありそうだ。業種別の産出額(売上高)で最も減少するのは電気・電子部品で約500億ドル。次が化学産業であり、減少率こそ10%弱だが、産業の分母も大きいため金額は230億ドル近い減少となった。中国への輸出減や原料確保の難しさなどもあるのだろう。中国の成長率がより下がれば、その分影響も大きくなる計算となるし、足元では日本や韓国なども感染拡大を受けて経済活動への悪影響が広まりつつある。中国を中心に世界全体での収束が確認されるまで、気の抜けない状況が続く」(聞き手=但田洋平)

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