杏林製薬は新型コロナウイルス感染症を30分程度で診断できる試薬の開発に成功した。判定に数時間を要するリアルタイムPCRに比べて検査時間を大幅に縮められる。ただ、企業側が基礎開発にめどをつけた段階で、行政側との調整が残されている。質の高い検査を普及するためのプロトコルなどが固まれば導入が始まる見通し。
 杏林製薬の親会社であるキョーリン製薬ホールディングスによると、新型コロナウイルスを高精度に検出できる試薬はほぼ完成した。検査の原理はPCR法だが、ヒーターで熱する微小流路内で遺伝子を増幅させる独自技術を組み合わせることで、5~15分と短時間に目的遺伝子を検出できる。検体の前処理を含めた検査時間は30分程度に縮まる。
 杏林製薬の新技術は昨年秋に呼吸器感染症などの研究用として投入し、同時に最大8遺伝子を検査できる特徴もある。専用装置「ジーンソック」は研究機関などに十数台を納入しており、キョーリンによると、装置の在庫を一定程度抱えているほか、新型コロナ対応に向けて増産を視野に入れている。
 ただし、企業側は試薬開発にめどをつけたが、行政側は迷走気味だ。国会では「3月に導入する」などの発言もあったが、精度の高い検査の普及には検体の取り扱いや前処理を含めた検査手法の手順書の策定が必須。厚生労働省など行政側とは現時点でこうした作業を本格的に擦り合わせる段階にいたっていないもよう。
 手順書に加えて、リアルタイムPCR検査との位置付けや、国か民間かどのレベルで新技術を活用するのか、実用化までに詰めなければならない項目は多そうだ。
 2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)時の国の検査対応を踏まえると、国立感染症研究所や地方衛生研究所、空港などの検疫所から導入が始まると考えられる。(三枝寿一)

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