東ソーは新型コロナウイルス感染症の遺伝子検査装置や検査薬の供給体制を強化する。コロナ前の生産規模の5~10倍に増産するとともに、もう一段の増産に向けて製造体制の拡張を検討し始めた。PCR検査と同等水準の精度で、約40分で自動で検査できる利便性や実用性に注目が集まり、中小の病院や検査センターから引き合いが増えている。コロナ以外にもニーズが広がる遺伝子検査で新規顧客の獲得につなげる。

 東ソーの遺伝子検査は「TRC法」と呼ぶ測定原理を用いている。一定の温度で連続的に検出目的のRNAを増幅する技術で、温度を上げ下げして遺伝子増幅を繰り返すPCRと比べて同等の精度で、検査速度は格段に速い。専用装置「TRCReady-80」は、手間のかかる検体の精製から増幅・検出の全工程を自動化し、感染の有無を約40分と短時間に判定できるようにした。

 東ソーはTRC法のコロナ検査薬の承認を7月末に取得したばかりだが、急激に需要が伸び「装置も検査薬も供給が追い付かない状況」(同社のバイオサイエンス事業部)。このため、装置を製造する子会社の東ソー・ハイテック(山口県周南市)は生産規模を月産数十台と5~10倍に増産するとともに、製造スタッフの増員やアジアからの部品調達にめどをつけ、需要を見極めたうえで、増強に着手する方針だ。

 遺伝子検査市場は、PCRを開発したロシュ(スイス)が7割以上の高シェアを握るが、コロナ検査は需要の大きい大規模臨床検査センター向けが一巡しつつある。第2波流行では検査体制のさらなる強化が求められ、政府による検査装置の購入補助といった後押しもあって、新規の検査需要は大手が手薄な地域の医療機関や中小臨床検査センターに移っている。

 こうした中小向けの引き合いが東ソーに集まっている。同社の検査装置は限られたスペースでも設置しやすい卓上型で、14年の発売以降、結核菌やマイコプラズマなどに検査項目を拡充し、コロナ前までに200台ほどを設置してきた。シェアはロシュに次ぐ約1割を占める。コロナ検査をきっかけに新規顧客に装置販売を広げ、シェアを高める狙いだ。同数万テスト分を供給するコロナ検査薬の増産準備も始めている。

 一方で小型の自動遺伝子検査装置は栄研化学や東洋紡などのライバルも注力する激戦区。栄研化学は検査薬の増産にも取り組み始めた。東ソーは欧米やアジアといった海外での事業機会も視野に入れているほか、コロナ向けの検査技術の品揃えを増やす計画だ。横浜市立大学と共同開発している抗体検査薬を年内に発売する予定のほか、PCRと同等の感度で診断できる抗原検査の開発を検討している。

専用装置「TRCReadyー80」。

生体試料を入れた精製キットや検出試薬を装填すれば精製から増幅・検出の全工程を自動で約40分で感染の有無を判定できる

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