新型コロナウイルスワクチンの開発で、メッセンジャーRNA(mRNA)を使ったワクチンの注目が高まっている。海外の大規模治験では有効率95%と高い効果が示され、月内には米国などで接種が始まる可能性が高い。一方でmRNAは非常に壊れやすいため、安全性や有効性を保持する製造技術などが課題だ。研究者でmRNA医薬に詳しい東京医科歯科大学の位髙啓史教授は千葉市内で講演し「うまくいけば、いままでのワクチンがすべて置き換わる可能性もある」と期待を示した。

 mRNA医薬・ワクチンは、例えば特定の疾患で欠損したたんぱく質を新たに作り出すためのmRNAを投与する新しい創薬技術。新型コロナワクチンでは、このメカニズムを利用して抗原たんぱく質を作らせ、免疫を獲得するアプローチの開発が進められている。mRNA創薬をリードしてきたベンチャーの米モデルナ、独ビオンテック、米キュアバックは、コロナウイルスが同定された直後からワクチンの研究開発に取り組んできた。

 位髙教授がmRNAワクチンについて「最も期待するポイント」と強調するのは、液性免疫と細胞性免疫を同時に誘導できること。不活化ワクチンなどは、抗原に対応した抗体を産生する作用(液性免疫)が主だが、mRNAワクチンは免疫細胞自体が異物を攻撃する作用(細胞性免疫)も発揮するとされる。モデルナなどのワクチンも細胞性免疫の誘導を確認し、最終治験では有効率95%前後と高い予防効果を示した。

 一方で課題もある。「まったく未解決な問題」というのがラージスケールに対応した製造技術の確立。mRNAは体内に投与されると急速に分解される非常に不安定な物質。ほかのサンプルで使ったHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を精製に使うだけでも壊れてしまうという。位髙教授によると、モデルナやビオンテックは「部屋ごと、極端に言えば建物ごと、完璧にクリーンなmRNA専用の環境で精製しているはず」と推測し、「もはや半導体製造レベルの品質コントロールをすることが、長期的には適しているかもしれない」とも話した。

 日本では、第一三共やアカデミアがmRNAのコロナワクチンや医薬品などを研究しているが、GMPレベルで量産できるCMO(医薬品製造支援)企業が国内に存在しないことも課題になる。純粋な化学合成でmRNAを製造する方法はまだ存在しないが、位髙教授は将来、企業の研究開発で化学合成法のブレークスルーが出てくることに期待している。

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