時計を気にしながらもテレビの前にかじりつき、ガッツポーズを作ったり、頭を掻きむしったり。日本中で何人が同じ仕草をしたのだろうか。淹れようとしたコーヒーの豆をこぼし、5枚入りのハムは上手く剥がせずボロ切れのようになった。パンは焦がさずに焼かなければ。いや、そんなことはどうでも良い。本当に勝てるのか。勝ってくれ▼類まれなる才能と一心不乱の努力。高い次元で完成させた技と力。しかし、それで何かが保証されるわけではない。マスターズという夢の大舞台。極度の重圧をはねのけ、勝利の女神を味方に付けることができるのか。勝負の後半に、築いたはずの大きなリードが剥ぎ取られていく。悪い想像が頭をもたげ、見るのが辛くなっていく▼実は3日目のプレーもテレビのライブ映像で見た。後半、圧巻のゴルフで2位に4打差を付けホールアウトした。ついにビッグチャンスが来た。結果はどうあれ、明日は最後まで見よう。そう思ったはずじゃないか▼10本の指を固く握り締めながら凝視した18番のバンカーショット。放たれたボールがグリーンを捉えたとき、初めてこの物語がハッピーエンドであると確信した。やりやがった!。見てるこっちは泣き顔なのに、本人は笑顔だった。感動をありがとう。松山英樹さん、本当におめでとうございます。(21・4・13)

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