力のない者には何の権利もない、黙っていろ。現実世界でこれを言ったらどうなるか。非難や怒りの対象になるだろう。政治家や裁判官、教師などなら職を失いかねない。しかし、映画やアニメなど架空の世界において、そんな台詞に出食わしても誰も怒らない。今、大ブームとなっているあの「鬼滅」でも確かそんなシーンがあった▼悪い奴だからといって、いきなり殺すのはダメだ。現実世界では当然そうだ。誰もが当たり前のことと理解している。ところが映画を見ているときは違う。必殺技で悪者を殲滅するヒーローに拍手喝采。架空世界と現実とを行ったり来たりして、倫理観や正義感を瞬時にスリ替える人間の思考とは不思議なものだ▼とはいえ世界では、架空の世界と現実との切り替えスイッチが壊れてしまったのかと思う出来事をときどき目にする。ちょうど4年前の米国大統領選挙の報道でそれを見た。まさか、現実世界でそんな選択をするのかという、なんとも言えない驚きを思い出す。今回、米国は現実世界に立ち戻って来るのだろうか▼日曜日、テレビで立皇嗣(りっこうし)の礼の儀式を見て、古事記など日本の神話を思い出した。某大統領どころではない破天荒な神々も登場するあの神話。そうか、切り替えスイッチはかなり昔から人々の中にあったのだ。(20・11・10)

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