休日、息子は母と手をつなぎ公園を歩くことになった。普段は娘と歩いている。娘に用事があって行かれないので、代わりに手を取った。右手に杖を持ち、左手を息子とつないで歩く母は、思うままに話をする▼田舎の農家で育った老人は、野菜を含めた植物に詳しい。畑から顔を出す葉の部分を見ただけで、これは大根、あれはタマネギ、こっちはカブなどと言い当てる。公園では、若かりし頃の思い出とともに花や実を付ける木々の解説を始める。椎の実とドングリの違いは聞いてもよく分からないのだけれど▼今日は「スットコ」に行っているらしい。娘がなぜ一緒に来られなかったのか、思い出したようだ。それにしてもスットコとは一体、どんな場所で何をするところなのだろう。ぼんやり考えているとき突然、背後から誰かに背中を叩かれた。ヨオッ!▼体育会系で兄を兄とも思わない老人の娘が、用事を済ませ追いついて来た。聞けば、娘が行ったのはスットコではなくCOSTCOで、それも昨日のことらしい。今日は、美容院がキャンペーンで安いから行ってくるって言ったじゃない▼お役目御免となり、母の左手は娘としっかり繋がれた。いつもよりペースが速くて疲れたと笑う母。夕焼け空に明星が輝いている。一緒に歩いていただきありがとうございました。(21・12・7)

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