上手くできる、とはどういうことか。失敗なしで何度も同じ作業を再現できることか。あるいは無駄なく短時間でできることだろうか。幾度も繰り返しそれを行った結果、コツをつかみ、動作や間合いなどが体に染み混んで、いつしか上手になっていく▼楽器の演奏、スポーツや武道、乗り物の操縦、ダンスなどなど。何かに取り組めば、そうした過程を体験する。大抵は、そこそこ上手くできるようになれば御の字だ。しかし、才能と努力と情熱次第ではその道のプロとなり、さらなる高みを目指すことになる▼先日、日本におけるヌーベル・シノワ(新しい中華料理)の第一人者にして、超一流のシェフに会った。千葉の行徳に奥様と構える隠れ家のような一軒屋で、傘寿を迎えた今も渾身の仕事をしている。コース料理の味の展開、そのメリハリを考えていると、時の経つのも忘れるという。道場さんが言っていたんだけど、料理は美味しければ良し。中華とか和食とか、ジャンルに縛られるモノじゃあない▼その言葉通り、出される料理はジャンルを超えた異次元の世界だった。シェフが食材に拘るから全然儲からないの、と笑いながら接客する奥様とのハーモニーも絶妙だ。基本を極めたからこそ見えてくる本質と、殻を破る自由な発想。そういう境地にたどり着きたい。(21・5・25)

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