学生時代、夏休みになると夜行列車に乗って長旅に出かけた。目的地に朝早く到着すれば一日を長く使えるだけでなく、宿代をできるだけ節約するのも大きな目的だった。国鉄時代は全国各地で走っていたが、今や定期列車は「サンライズ瀬戸・出雲」を残すのみ▼一方、欧州では夜行列車が復活の兆しをみせているという。フランスではパリ~ニースで寝台列車の運行を再開。背景にあるのは脱炭素。1人を1キロ輸送する際のCO2排出量は飛行機が約100グラムに対して、鉄道は20グラム未満との試算もある。環境負荷が小さい鉄道の利用を促進しようと各国政府が支援しているようだ▼フランスでは大胆な法案も審議されている。鉄道を利用して2時間半以内で移動できる距離の国内便を廃止するものだ(国際便の乗り継ぎを除く)。どれだけ効果があるかは疑問だが、脱炭素に聖域はないということか▼格安航空会社(LCC)の発達で衰退の道をたどっていた夜行列車が見直されているのは、時代に逆行しているようだが、持続可能な世界のあり方の一例ともいえる▼日本では新幹線ネットワークが整備されているだけに、夜行列車の出番はもはやないかもしれない。しかし個室寝台であれば三密を避けて快適な旅行ができる。都市間移動の選択肢として復活の余地があると思うのだが。(21・6・25)

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