共同研究プログラム「T―CiRA」に取り組んでいる武田薬品工業と京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)由来の再生医療事業を手がける新会社「オリヅルセラピューティクス」を設立したと発表した。T―CiRAから進展したiPS細胞由来の再生医療プログラム2件を引き継ぐ。開発資金は武田薬品や金融機関などから60億円調達した。5年後までに有効性を確認し、早期申請や後期開発につなげる。iPS細胞関連技術を活用した創薬支援サービスにも乗り出し、株式上場も目指す。

 T―CiRAは武田薬品とCiRAを中心とする10年間の共同研究プログラム。湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)に拠点を置き、iPS細胞技術の創薬・再生医療応用を目指している。活動開始から5年が経ち、研究プロジェクトは今年5月時点で8件に充実。臨床試験入りが見込めるプロジェクトも出てきた。

 武田薬品の注力領域には入らないプロジェクトもあり、事業化の受け皿となる新会社としてオリヅルセラピューティクスを設立した。武田薬品でT―CiRAディスカバリーヘッドを務める梶井靖氏は10日の記者会見で、「現状で導出しても確実に患者に届けられる組織が存在しない。研究成果を良い形で患者に届けるには、湘南アイパークのエコシステムの中でT―CiRAや(CiRAの)山中伸弥教授と協力しながら進めていくべきと考えた」と説明した。

 開発を引き継ぐのは、CiRAの吉田善紀准教授らによるiPS細胞由来の心筋細胞(iCM)と、豊田太郎講師らによる膵島細胞(iPIC)のプロジェクト。iCMは心不全、iPICは1型糖尿病に対する再生医療として、京大医学部附属病院で臨床試験を始める。2026年までに所期の有効性(POM)を証明し、このデータで条件付き早期承認制度を活用した承認申請や、他社への導出や提携などを検討する。

 オリヅルの社長に就任した野中健史氏は、「(前臨床段階から臨床試験に移行する)この開発段階は『死の谷』とも呼ばれ、とくに日本の研究開発の弱点と言われていた。新会社はこの弱点を克服するためにデザインされた」と話し、iPS細胞研究の加速と社会実装に意欲を示した。

 iPS細胞関連技術を生かした創薬支援サービスも始める。iPS細胞由来の分化細胞や組織オルガノイドの作製、iPS細胞を使った薬剤スクリーニング・評価サービスなどを計画している。従業員数は約60人。T―CiRAに所属していた武田薬品、京大などの研究者が移籍した。

 初期の活動資金として、武田薬品や京都大学イノベーションキャピタル、三菱UFJ銀行、SMBCベンチャーキャピタル、メディパルホールディングスなどから総額60億円を獲得した。26年までに出るPOMデータ次第で、株式上場による資金調達も目指す。

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